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【小学館の名作文芸朗読】

冬になって、堯（たかし）の肺は痛み、痰は時に鮮やかな紅に冴えた。自分の病気が約束している死を前に、彼はこの頃生きる熱意をまるで感じなくなっていた。一日一日が彼を引きずっている。ある日、堯は朝に出した葉書を中止するために、再び郵便局を訪れる。その葉書は、一度は暖かい海岸で冬を越そうと、友人に貸家を探すことを頼んだものだった。

【小学館の名作文芸朗読】

満洲の読者に宛てた手紙形式のエッセイ。自身を「日本の東京市外に住む貧乏であまり有名でない作家」と紹介し、満洲の人々に語りかけるような形で執筆されている。東京の自宅で砂埃の舞う春を迎えつつ、満洲の春を想像し、南京に新政府が成立する日に、政治には疎いながらも平和への憧れを語る。

【小学館の名作文芸朗読】

「自然の色は画家の色より美しくない」という言葉から派生する芸術論。有島は、人間は本質的に「誇大する動物」であり、芸術は自然の誇大だと主張する。画家は自然を切断・抄略・強調して誇大し、芸術を生み出す。一方で科学者は自然を客観的に見ようとする。

【小学館の名作文芸朗読】

ポコちゃんと千ちゃんは夏休みに月の世界を探検する計画を立てる。宇宙艇カモシカ号は順調に運行していたが、成層圏を通りこすと、突然、どえらい音をたてて艇が揺れる。空中分解するのではと心配したが、その正体は流星群の隕石だった。何とか危機を脱出し宇宙の墓場と言われる重力平衡圏まで来ると、三年前に遭難した新コロンブス号を見つける。

【小学館の名作文芸朗読】

どこからか小犬を貰ってきた三郎は、ボンと名付けて可愛がっていた。ボンは人馴れたやさしい犬で、誰でも呼ぶ人があれば懐いていたが、隣に住むばあさんと臆病な子供の母親からは、さんざん悪く言われ、いじめられた。姉や祖母は誰か欲しい人にあげたらどうかと言うが、三郎はどうしても納得できない。

【小学館の名作文芸朗読】

昼すぎの閑散とした喫茶店で友人を待っていた「彼」は、離れた席から自分をじっと見つめる和服姿の女性に気づく。四十歳前後のその女性は、娘と思われる少女と誰かを待つ様子で、静かで落ち着いた表情だった。

【小学館の名作文芸朗読】

墓場の裏で暮らす貧しい若夫婦の生活が描かれる。夫婦は互いに愛情を持ちつつも、経済的な困窮のため些細なことで喧嘩を繰り返していた。妻の菊子は献身的に夫を支えようとするが、夫はそのいじらしさがかえって腹立たしく、つい激しく彼女を責めてしまう。夫は職を求めて履歴書を書いたり知人に手紙を出したりするが、どれも上手くいかない。

【小学館の名作文芸朗読】

夫の紀介が他界して百日の間、「わたくし」（山吹）は毎夜、松並木の道を歩いてます。それは都から来る時の紀介を思い浮かべ、五体がそれぞれの記憶の中に別々の思いに耽りたいから。先日、あるお百姓家の老媼から、紀介が陰ながら後事を託してくれていたことを知り、短い間にもわたくしは「しやわせ」でした･･･。実は、今日こそ保則様にお話ししたいことがあるのです。

【小学館の名作文芸朗読】

戦時下における、友人との別れを描いた短編。ある朝、五年音信不通だった旧友Sから突然軍事郵便が届いた。Sが応召して翌日第一線へ出発すると知り、激しい雨の中、面会場所へ赴く。多くの見送り人の中からSを探し、見張り役をしていた彼と再会することができたが、Sには見送る人が主人公しかおらず──。

【小学館の名作文芸朗読】

戦時中の日本を舞台に「ぼく」とその兄の関係を描いた物語。兄は気が弱く我慢強い性格で、召集される前は会社勤めをしていた。兄の靴にはその生活の汗がにじみ、形が歪んで穴があいていた。兄は謙虚で正直な人間を愛し、権力に頼らず誰にでも真摯に向き合う姿勢を持っていた。会社の上役が権力で部下を抑えつける様子を不愉快に思い、重役の私用使いも拒否するほどだった。

【小学館の名作文芸朗読】

両親のいない、とても仲のよい姉弟が、毎日、この港に近い広場にやって来た。十ばかりの弟は盲目で笛が上手、十六、七の美しい姉は声がいいので、笛の音につれて、姉は唄を歌い踊っていた。ある日、大尽のお使いの男がやって来て、姉を馬車に乗せていく。しかし、すぐに帰ってくると約束した姉は、日が暮れても戻ってこない。

【小学館の名作文芸朗読】

坂口が京都伏見で囲碁倶楽部を創設した体験を描く。小説執筆に行き詰まり気分転換として囲碁に没頭し、上田食堂の二階に碁会所を開設。「関さん」を席主に据え、様々な地元民が会員となる。「へぼ倶楽部」と揶揄されながらも猛練習を重ね、二段の棋士を招いて腕を磨く。しかし、席主の問題行動から会員との軋轢が生じてしまう。

【小学館の名作文芸朗読】譲吉は、久しぶりに上野図書館を訪れ、自分の苦しかった学生時代を振り返る。

【小学館の名作文芸朗読】

北の海へ帰るかもめから、南の都では鳩が平和に遊び暮らしていることを聞いたからす。ついその気になって都へ来たものの、鳩の仲間にはなれず、人間からは憎まれ、再び里に帰っていく。それ以来、からすは人をおだてたり、嘘を言って困らせたりすることを喜ぶようになる。

【小学館の名作文芸朗読】

秩父山系の笛吹川上流部である東沢と西沢の探索記録である。広瀬から出発し、子酉川と呼ばれる上流域へ進み、南北に分かれる東沢と西沢の様子を詳述する。険しい崖や滝が連続する渓谷美と、それを越える探検的旅行の醍醐味が描かれる。特に東沢では、鶏冠谷から広河原までの区間が詳細に記録され、釜沢や信州沢といった支流の特徴も説明される。

【小学館の名作文芸朗読】

山岳地方の春の訪れと自然の変化を観察したエッセイ。三月でも山には雪が残り、消えるのは五月中旬頃という季節のずれに着目する。冷たい空気が北へ流れ、地中の熱と日光が働き出すと、短期間で春から夏へと変わる。

【小学館の名作文芸朗読】

人間が死ぬ瞬間や危険に遭遇したときに起こる超自然的現象を描いた随筆風の怪談。怪談として語られる臨終の際の知らせは、実は精神的なテレパシー現象なのではないか。知人女性は離れた親友と感情が通じるか実験し、約6割が一致したという結果を得た。ある老僧によれば、死の瞬間には一生の光景が脳に現れ、執着や恨みの強い人は霊として現れることがあるという。

【小学館の名作文芸朗読】田山録弥が、芸術論・創作論をまとめたエッセイ集。芸術が単なる実行や学問、修養だけでは成り立たず、「不思議な鳥」として例えられる創造の閃きが作家の中に宿ることが必要だと述べる。不思議な鳥とは、いまそこにいたかと思うとどこかに飛んで行ってしまうような、そうかと思えば一つの枝にとどまり続けているような、ある人には見え、ある人には見えないというような鳥を指すという。

【小学館の名作文芸朗読】

東京の芝区にある質屋で、女房が五、六歳の娘を残して病死したため、所天は後妻を迎えた。後妻は従順で愉快そうな女性で、継子にも真の母親のような愛情を示したため、継子も懐き所天も安心だった。しかし、しばらくすると後妻は黙り込み、口数が少なくなってしまう。

With accomplished precision and gentle eloquence, Jhumpa Lahiri traces the crosscurrents set in motion when immigrants, expatriates, and their children arrive, quite literally, at a cultural divide. The nine stories in this stunning debut collection unerringly chart the emotional journeys of characters seeking love beyond the barriers of nations and generations.