エピソード

  • EP. 613『@當麻 、其ノ一 - よもぎは祈りのにおいがする 』
    2026/05/07

    奈良県の當麻(たいま)に行ってきました。當麻の名物、よもぎ餅「中将餅」を食べに朝早く向かったのですが、お店の前はもうすでに人でいっばいでした。売り切り御免の中将餅は、よもぎが搗き込まれた餅の上に、餡を控えめにのせたもの。なんといっても、食べた瞬間、お店が独自の畑で栽培しているというよもぎの香りが立ちのぼります。甘さよりもまずやってくるのは「野のにおい」です。名物というものは店先で完結していると思われがちですが、店の奥に見える畑から、本当はそうじゃないことに気がつきます。「當麻寺」を訪ねると中将姫が一晩で作り上げたと言われる「曼荼羅」も残っています。人はときどきことはそのものよりも、言葉が生まれる前の気配にうたれることがあります。當麻はそういう場所なのではないかと思います。

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  • EP. 612『@法隆寺 、其ノ三 - 茶粥、奈良漬け、法隆寺 』
    2026/04/30

    奈良・斑鳩の地に佇む法隆寺。世界最古の木造建築として知られていますが、その価値は「古さ」だけでは語りきれません。アーネスト・フェノロサのような存在が、日本の美を見出し、外へと開いていきました。その結果、法隆寺は1993年、日本で初めて世界遺産に登録されるに至ります。日常の中では気づきにくい価値。それは食にも通じます。奈良の朝にいただく「茶がゆ」は、静かで素朴な味わい。

    そこに奈良漬けの強い香りと塩気が加わることで、「おいしさ」が際立ちます。対照的なものが並ぶことで、はじめて見えてくる本質。法隆寺の美も、奈良の食も、その“バランス”の中で、今へと受け継がれています。

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  • EP. 611『@法隆寺 、其ノ二 - 柿と鐘と小さな沈黙』
    2026/04/28

    法隆寺に行ってみるとガラーンとしていました。 日本を代表する古いお寺です。でも、圧倒される感じを受けたり、感動することもありません。あって当たり前という感じでした。奈良市内から40分。法隆寺に近づくにつれ、なぜか言葉も少なくなって、喋らなくてもいいんじゃないかという気持ちになってきました。その道すがら「柿の葉寿司」を食べました。握った時の柿の葉のザラザラした感じが、法隆寺の乾いた空気と合っています。そして、食べるためになんの説明もいらない。東京や都会では、さまざまな成分などの説明を読んでから安心して食べたりしますが法隆寺ではいらない。これこそが、日本の心の故郷である法隆寺の強みです。だから、たまに奈良に行くと、都会で働く元気のもとになるのではないかと思いました。おいしいものを食べた時の

    「沈黙」を味わうために。


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  • EP. 610『@法隆寺 、其ノ一 - 聖徳太子、蘇と鰯』
    2026/04/27

    奈良市内から法隆寺までは車で40分ほど。着いてみると、やっぱり特別な場所で、壮大なのにまったく威張っていない。古いのに、どこか軽やかで、余計なものが削ぎ落とされて、祈りだけがすっと立っている、そんな感じがしました。この寺を築いた聖徳太子が、どんなものを食べていたのか、ふと考えたんです。ひとつは、中国大陸から渡って来た「蘇(そ)」、牛乳を煮詰めたチーズのようなもの。もうひとつは、あくまで私の想像ですが、昔から日本にある「鰯(イワシ)。新しく入ってきたものが「蘇」で、古くからあるものが「鰯(いわし)」と考えると、その両方を大事にすることは、聖徳太子の「和を以て貴しとなす」という言葉に、つながっているのではないでしょうか。そして夢殿。八角形でどこが正面かわからない、そんな建物にも太子の“和”の思想が広がっている気がしました。

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  • EP. 609『@奈良 、其ノ四 - 春、山、笑うが如し、ブロッコリー』
    2026/04/23

    今年の春のお彼岸は3月20日、最近は春分の日という言い方が一般的ですが、奈良ではやはりお彼岸という言葉に特別な意味を感じます。奈良七大寺に代表されるように、古くから仏教の教えが息づく土地で、「彼岸へ向かう」という感覚が自然とあります。「山笑う」という季語の通り、若草山もにっこり微笑むような春の表情でした。 そんな中いただいたのが、和牛のステーキにブロッコリーとわさびのピュレ、さらに奈良のお味噌や醤油にマルサラ酒を合わせたソース。実はブロッコリー、2026年4月から国の指定野菜になりましたが、一番おいしいのは冬の終わりから春先。寒さの中で育ったものは旨みがぎゅっと詰まっています。マルサラ酒はイタリア・シチリアの酒精強化ワインで、コクのある甘みが特徴。お肉にもよく合います。 奈良はシルクロードの東の終点とも言われ、正倉院にはペルシャや中国の影響を受けた品が残っています。今回訪れた「シルクロード」という名のレストランでも、そんな歴史のつながりを感じる味に出会えました。

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  • EP. 608『@奈良 、其ノ三 - 奈良で頂くしらす丼』
    2026/04/22

    ホテルで窓から景色を見ていると、部屋に案内してくれた若い男性が、一山向こうが和歌山、

    そして三重にも近いことを教えてくれました。ホテルの近くの日本料理の店に行ったら、隣の和歌山にも近いということを感じさせてくれる、驚きのものを食べさせてくれました。和歌山の磯間港でとれた「しらす」をのせた「しらす丼」です。伝統の小曳網漁(こびきあみりょう)で傷つけないように取られた磯間のしらすは「飲めるしらす」と表現できるほどです。奈良県葛城市で収穫したお米にたっぷりのしらす。そしておいしいたまごの黄身。「奈良にうまいものなし」と言ったのは志賀直哉でしたが、とんでもない。おいしいものがたくさんあります。

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  • EP. 607『@奈良 、其ノ二 - 奈良野菜マナ、にお月様』
    2026/04/21

    奈良で泊まりたかったところに泊まってきました。奈良市役所の目の前、1300年ほど前、奈良時代に長屋王が住んでいたところです。本来なら天皇になっていたかもしれない方です。なんだかその場所に立つと急に身近に感じられました。そこで、長屋王と同時代に生きた阿倍仲麻呂も思い出しました。遣唐使として長安へ渡り、望郷の念を抱えたまま異国の地でなくなった仲麻呂。「天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」仲麻呂の故郷・奈良を想って詠んだ歌も声に出してみました。

    そして彼らが食べたであろうものを食べました。奈良の「マナ」という野菜です。時を超えて1300年の昔を感じること。自分の原点を感じることができます。仲麻呂が観た月を観るように、奈良を訪れるのは満月の時がいいかもしれません。

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  • EP. 606『@奈良 、其ノ一 - 行法味噌、奈良、お水取り』
    2026/04/20

    奈良を訪ねて、春を呼ぶ行事・お水取りと、その背景にある食のかたちを見てきました。ちょうど時期が重なり、奈良国立博物館での特別展も訪問。東大寺二月堂のお水取りは、人々の無事や再生を祈る大切な行事です。博物館の展示の中で特に印象的だったのが、僧侶たちの食事の献立です。江戸時代の資料なんですが、今もほとんど変わらず、とても質素。ご飯に味噌汁、少しの煮物。でもそのシンプルさが、二週間の厳しい修行を支えているんだと感じました。余計なものを削ぎ落として、体と心を整える――その食そのものが修行なんですね。実際にその行法味噌もいただいたんですが、派手さはないのに、じんわり体に染みてくる味。まるで心に小さな火を灯すようでした。奈良の食も、祈りを静かに支えているんだと思います。

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