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【小学館の名作文芸朗読】

雪の降る退屈な晩、井深君の邸宅に集まった友人たちが嘘の話を競い合っていた。順番が回ってきた井深君は「偽瞞こそあらゆる芸術の本体だ」と前置きし、自分が嘘をついた話を始める。それは銀座を散歩中、オレンジ色のジャケットを着た若い女性との出会いから始まった。颯々と肩をゆすりながら歩いていく彼女を「不良だな」と思いつつも、なぜか後を追いたくなり...…。

【小学館の名作文芸朗読】

ポピイとピリイは、ある屋敷の車庫で暮らす、古い自動車であった。二人は、それぞれ御主人と奥さまとを乗せて仲良く暮らし、何の不自由のない生活を送っていたが、子供がいないことを寂しく思っていた。男の子がほしいポピイと女の子がほしいピリイは、話し合いの末、小さな可愛らしい孤児の自動車を見つけたら、すぐに養子にしようと決めていた。

【小学館の名作文芸朗読】

正二は兄と一緒に川で捕った小さな魚を大きな睡蓮の鉢に入れて飼っていた。冬が近づくと、魚が一匹死んでしまう。兄はあとの二匹を他の入れ物に移して家の中に置くことにする。そして椿の下に穴を掘って枯れ葉を敷くと、死んだ魚を上にのせ、さらに枯れ葉をかぶせて土をかける。正二には優しい兄の心持ちがよくわかった。

【小学館の名作文芸朗読】

探偵小説の衰退について考察した評論。夢野は、「探偵小説を根源的な芸術として位置づけ、その価値はトリックや謎解きだけにある」という本格派の主張に反論する。探偵小説は従来の芸術の伝統から脱却し、人間心理を深く分析する新しい文芸形態である。純粋な本格探偵小説は原始的な型に過ぎず、真の使命は変格にある、と主張を続ける。

【小学館の名作文芸朗読】

福岡県の英彦山に年に五、六度登った体験を綴る紀行文。多くの人はこの山をつまらないと言うが、杉田は伝説を聞き、様々なルートで登るうちに興味と親しみを感じるようになった。英彦山は天狗が出そうな雰囲気の山で、かつては三千八百坊が伽藍を連ねる霊場だったが、現在はわずかな山伏の末裔が残るのみである。しかし「ほんとによい山だ」と評さざるを得ないものが確かにある。

【小学館の名作文芸朗読】

小学六年生のころ、「ぼく」は、沼で遊ぶ少女に心を奪われた。それからというもの、すっかり勉強が手につかなくなって中学入試に落第してしまった。そればかりか、高等科で一年を過ごした後、中学に入学しても、校長の授業中に居眠りをして「注意人物」として朱色の△印をつけられてしまう始末だった。この理不尽な仕打ちは、「ぼく」の学校への反感を育てていった。

【小学館の名作文芸朗読】

朝に奈良の宿を発って高野山に向かう。吉野川を渡り乗合自動車に乗った後、O先生と私は駕籠に乗り、T君とF君は徒歩で登り、奥の院で護摩の火に一燈を献じて宿坊に戻る。その夜、仏法僧鳥が啼くのを聴くため、再び奥の院に行く。仏法僧鳥は高野山の霊鳥で、運がよければ聴けるが、後生のよくない者は聴けない。私達は奥の院の裏手で待っていた。

【小学館の名作文芸朗読】

イーハトーヴの森で生まれたグスコーブドリは、木こりの父母と妹ネリと暮らしていた。だが十歳の頃、気候の変化で作物が実らず、二年続きの不作から飢饉となり、一家は木の皮や草の根で冬をしのがざるを得なくなる。春が来ても状況は好転せず、父は「森へ遊びに行く」と出かけて帰らず、母も「父を探す」と森へ入り戻らなかった。

【小学館の名作文芸朗読】

のぶ子は幼い頃にかわいがってくれた姉の顔を覚えていない。母によれば、姉は遠い外国へ嫁いだという。そんな姉の顔を一目でいいから見たいと願う。ある日、外国から小さな軽い紙の箱が届く。南アメリカに住む姉が、手紙と一緒に草花の種子を送ってくれたのだ。きっと美しい花が咲くに違いないと、黒い素焼きの鉢に植えて大事にしていた。

【小学館の名作文芸朗読】

務は自殺を図ろうとしていた。電車の踏切で自殺を試みたが果たせず、混乱した頭で他の死場所を探していた。いらいらした気持ちで丘の小径へと向かい、人気のない夜道で松の枝に兵児帯を掛けようと思いつく。しかし帯を投げて枝にかけ、結び目を作り上に攀じのぼろうとしたその時、耳許で叱り咎めるような声がした。振り返ると白っぽい洋服を着た鈎鼻のある兄・正義の顔があった。

【小学館の名作文芸朗読】

時事新報社記者時代に湯島天神で偶然見てもらった手相について語るエッセイ。冗談半分に友人の久米や芥川と訪れた境内の易者に見てもらったところ、菊池が三十歳を越えてから栄達し、一群の人の上に立ち、金銭に不自由しなくなることなどが予言された。当時貧乏で文壇に出ることなど夢にも思わなかったが、十年後にはこの予言が悉く適中し、やがて手相に興味を持つようになる。

【小学館の名作文芸朗読】

明治末期の東京・三崎町の変遷を描いた随筆。旧幕府の講武所や大名屋敷があった三崎町三丁目は、明治初年から陸軍の練兵場となり、三菱に払い下げられた後も「三崎町の原」と呼ばれる草原のままだった。明治22、23年頃から三崎町は開け始め、特に明治25年の神田の大火以降、急速に繁昌し町になったのだ。岡本は少年時代の苦労を思い出しながら、変遷を振り返っていく。

【小学館の名作文芸朗読】

津軽に帰郷した「私」のもとに、小学校時代の友人たちが訪ねてくる。彼らは町会議員や農民、校長先生となり落ち着いた大人になっているが、大酒飲みで女好きという共通点がある。一方で中学時代の友人は気取っていて窮屈な感じがする。ある日、町の病院に勤める医師から晩餐の招待を受けるが、「私」は物資不足の時代に招待されるのが苦痛で断りに行くと──。

【小学館の名作文芸朗読】

マシルドは男好きのしそうな美しい娘だが、貧しい家庭に生まれた。持参金もなく、金のある上流の紳士から求婚されるという夢も叶わず、官庁の小役人と結婚した。マシルドは美しいのに華美な衣装も宝石もなく、自分がふさわしい地位に行けないことを嘆いていた。そんなある日、夫が官長主催の舞踏会の招待状を持ち帰ってくる。

【小学館の名作文芸朗読】

大阪弁と京都弁を比較しながら言葉の特性や文学表現について論じたエッセイ。織田は大阪弁の「だす」と京都弁の「どす」の音の違いから説き起こし、京都弁は美しいが魅力を感じないのに対し、下品でどぎついとされる大阪弁に魅力を感じると述べる。

【小学館の名作文芸朗読】

理化学研究所で働いていた思い出と日本人の国民性についての考察を綴ったエッセイ。量子物理学が誕生しつつあった時代、オランダからの研究者ディーケが日本文化に深く関心を持ち、日本語を習得していく様子が描かれる。

【小学館の名作文芸朗読】

彫刻家である高村が触覚を通して世界を捉える視点を述べたエッセイ。高村は、触覚は最も幼稚でありながら最も根源的な感覚であり、彫刻は最も根源的な芸術だと主張する。色彩、音楽、香り、味覚など、一般に別の感覚と考えられるものも実は触覚に統一されている。「人は五官というが、私には五官の境界がはっきりしない。」と続け、様々な”触覚”を綴っていく。

Kevin J. Kennedy’s newest release weaves a chilling tapestry of fear, blending the grotesque, the supernatural, and the utterly bizarre. This gripping horror anthology brings together nineteen stories, each more terrifying than the last, as it delves into the darkest corners of human experience and the unexplainable horrors that lurk just out of sight. From high-tech terror to ancient folklore, these tales are bound to haunt readers long after they’ve turned the last page. The Horror Collection Morte Edition taps into primal fears with each story, expertly blending dread with the unknown.

【小学館の名作文芸朗読】

フランスのトゥロンを舞台にした短編小説。この町には盲目のジャンと足の不自由なピエールという二人の身体障害者がいた。人々は、この二人だけが障碍者であると思っており、それは本来なら町の守り本尊である聖マルティンの木像に願をかければ障害が治ってしまうからであった。しかし、海賊の襲来を恐れた町の長老たちが像を山奥に隠してしまったため、治らない状態が続いていた。

【小学館の名作文芸朗読】

幸ちゃんと清ちゃんは二つ違いの親友で、毎日一緒に学校へ通っていた。ある日、幸ちゃんが風邪で学校を休み、清ちゃんは一人で寂しく登校することになってしまう。帰り道、清ちゃんはお寺の前でいちょうの葉と実を拾い、病床の幸ちゃんに届けた。幸ちゃんは喜び、回復したら一緒にお寺に行こう、と約束する。