エピソード

  • ボイスドラマ「覚醒」
    2026/07/17
    80年前の朝日村。戦争孤児の少女と、正体を隠して生きる少女。二人の出会いが、現代へ続く「覚醒」の物語を動かし始めます。飛騨に伝わる八百比丘尼伝説を描いた和風ホラーボイスドラマです・・・【プロローグ:出会い】◾️SE:村はずれの辻の環境音/〜駆けつける足音八夜の泣き声「お願いです、通してください。私はただこの村に用があって」「おまえら!なにしとるんや!」「なんじゃあ?伽耶!邪魔するなて」「大人がよってたかって、女子(おなご)をいじめるとはなにごとや!」「女子 って、お前も同じくらいの歳やろうに」そうだ。わしと同じくらい。十六か十七くらいの女の子が、目の前で泣いている。「それにいじめとるんやないぞ。このガキが、村に入ろうとするからじゃ」「ええやないか。入れてやれば」「あほか。ただでさえ、食糧難やっちゅうのに、これ以上よそもんに食い扶持減らされてたまるか」「おまえらだって、名古屋とか大阪から疎開してきた、よそもんだろ」「うるせえ。つべこべ言うと、お前も村から叩き出すぞ、伽耶!」怖い顔して私を睨みつける疎開者たち。1946年。益田郡(ましたぐん)朝日村。終戦からまもなく1年が経とうという頃。朝日には名古屋や大阪から、疎開者がぞくぞくとつめかけた。なかでも多かったのは引揚兵や復員兵たち。小さな村はよそものでごった返していた。ただでさえ平地が少なく、米の収穫量が限られている朝日村。急激な人口流入は激しい食糧難をもたらした。配給や耕作地をめぐる諍いも毎日絶えない。疎開者たちは森を切り拓いて自分たちのために畑と住処(すみか)を作った。林業に関わっていく者も多い。彼らはいつも数人で村の辻に立ち、入ってくる者を見張っていた。「ええか。ガキ。十(とお)数えるうちに出ていかんと、痛い目を見るぞ!いち!」「待て!この子はわしが面倒みる。連れてくぞ」「おいおい。ガキがガキの面倒みるってか」「うるさい。そんなこと言っとってええのか。今度腹痛(はらいた)になっても薬草を煎じてやらんぞ」「う・・なんだと・・」わしは、少女の手をとり、うちへ向かって歩いていく。疎開者の男は恨めしそうな顔でわしを睨んでいた。【シーン1:ともだち】◾️SE:朝日川のせせらぎ/小さな足音「ありがとう」消え入りそうな声で少女が呟く。「助けてくれて」「ええんやよ。わしだって、もともとよそもんやし」「どういうこと?」「戦時中はわしも疎開者やったんだて」「え・・」「実家は名古屋や。戦況が悪化した去年の正月。とうさまとかあさまは、わしをひとりでここ、朝日村へ行かせたんや。「そうなの・・」「そのすぐあとで名古屋の大空襲や。B29が、とうさまとかあさまと家を焼き尽くした」「そんな!」「新聞もなんも教えてくれんからな。わしが知ったのは、5月になってから。名古屋城が焼け落ちた、ってみんな騒いどった頃や。ちょうどそのころ、疎開先のここへとうさまとかあさまのお骨が届いた」「やだ・・」「お骨ったって、骨なのかどうかもようわからん。砂みたいな焦げカスだけや。その中に手紙がねじこまれとったわ」「手紙・・?」「親戚のおじさんからでな。みんな、家も焼けてしもうたで、帰ってくるな。お骨はそっちで弔ってくれ、って」「ひどい・・」「ああ。でも戦争なんて、そんなもんやろ。そういうわけでわしは戦災孤児になった」「そう・・」「今からいくんは、わしのうちや。炭焼き小屋だけどな。杣衆(そましゅう)の面倒みてやるかわりに、住まわせてもろうとるんじゃ」「面倒・・?」「うん。わしには薬草の知識があるからな」「薬草?」「ああ。よもぎとかクロモジとか。朝日には掃いて捨てるほどあるじゃろ。わしが疎開する前、かあさまが薬草のこといろいろ教えてくれてな。これは食べれる。これは食べたらあかん。ゲンノショウコってやつは腹の具合がわるいときに煎じて飲む。ドクダミは便秘に効く。ヨモギは風呂に入れて疲れをとれ。怪我したら、クロモジの葉を粉末にして止血しろ・・・」「すごい・・」「なんか感じるものがあったんじゃろなあ。かあさまは...
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    19 分
  • ボイスドラマ「スイートラディッシュ」
    2026/07/10
    高校では目立たない存在。だけどネットの世界では、何万人ものファンに愛される人気VTuber。そんな二つの顔を持つ女子高生・ナヴィが主人公の物語です。【ペルソナ】※ナヴィはフランス語で「赤かぶ」・ナヴィ(17歳JK)=高山市内の高校2年生。陰キャでコミュ症。対人恐怖症。だが裏の顔は・・・スウィートラディッシュ=全国的に大人気のVtuber。通称『スイラジ』すべてが謎・ジン(17歳)=高山市内の高校2年生。祭り屋台に命をかける祭り男子。だが裏の顔は・・・フェニックス=スウィートラディッシュと人気を二分するイケメンVTuber。通称『ホウ』・イチゴ(17歳/CV=岩波あこ)=スイラジガチ推しの同級生。別に友達ではない・ナヴィのママ(CV=山﨑るい)=Vtuberのことはよくわからないけど薄々気づいている【プロローグ:LIVE配信】◾️SE:アニソンのアウトロ〜「みんな〜!おつラディ〜!スイートラディッシュの”歌ってみたライブ”、最後の曲は『アイニキテ』でした〜!アンコールのコメントもたくさんありがとう〜!ア〜シの想い、”ラジ部”のみんなに届いたかな?っ。次の配信は来週!スケジュールはXに載せるから、ちゃんとチェックして待っててね?遅刻は厳禁だよ〜!忘れたらおこだからね〜ハッシュタグはいつもの『スイラジ』〜そしゃ、バイバイ!」「あれ・・、いまアタシ、なんてった?あ〜、まいっか」◾️SE:LIVE終了の音「ピ」ア〜シはスイートラディッシュ。通称”スイラジ”。みんな知ってる、人気ナンバーワンのアイドルVtuber。今夜のライブ配信も、10,000人以上のファンが参加してくれた。バーチャルスタジオをレンタルして、3曲もうたっちゃったからねー。スイラジのビジュは、王道のアイドル系。​​ゆるふわに巻いた高めのツインテール。赤かぶをモチーフにしたリボン付きの結び目。ラディッシュのしずくをイメージしたチョーカー。トップスは赤白のギンガムチェックのビスチェ。デコルテがきれいに見えるハートネック。肩口はシースルー素材のパフスリーブ。ボトムスはボリュームたっぷりの3段フリルミニスカート。腰の後ろには、赤かぶの葉をイメージしたオーガンジーリボン。ダンスするたびにひらひらと揺れる。スイラジは、大手事務所に所属せず、フリーで活動中。ゲーム実況とかはやらずに、フリートークと歌がメイン。アイドルVtuberの世界では、イケメンVのフェニックスと人気を二分してる。・・・っとあ、あか〜ん。もうこんな時間やん。勉強やんなきゃ。明日期末なのに〜そう。スイートラディッシュの中の人は、ア・タ・シ・・現役JKのナヴィ。市街地の高校に通う二年生なんだ。仮想世界ではバリバリのアイドル。1万人の前でも余裕で歌えんのに、リアル出ると・・・マジ無理。詰む。だってアタシ、陰キャ、コミュ症なんだも〜ん!【シーン1:期末1日目】◾️SE:教室のチャイムやっぱりだめだったぁ。終わった〜。英語も歴史も数学も全滅。まじで1ミリも分かんなかった〜。余裕で赤点だ〜。期末前日にライブ配信やるなんて・・・バカじゃん、アタシ。「ねえ、昨日のスイラジ見た?」え?「そうそう、あの最後の・・」昨日のアタシのライブのこと?「だよね!言ったよね。『そしゃ』って」あ・・・「うんうん。やっぱそうじゃない。スイラジってさ・・」やばっ。「高山住み〜!?」やらかした〜。やっぱバレてたか〜。「ひょっとして私たちの周りにいたりして〜?きゃ〜!」期末1日目終わったあと、みんな教室に残ってだべってる。ってか、みんな昨日ライブ見てたの?期末前日に。でもでも。どうする?「ほ〜んとにいるかもよ〜」さっきからずっとマウントとってるイチゴと・・目が合った・・・え?一瞬の沈黙。そして・・・「ないない!」はぁ〜っ。よかった、アタシ。陰キャで。と思ったそのとき・・・「ちげーよ」ジン・・・「スイラジがこんなとこにいるわけないだろ」いるけど・・・「それに『そしゃ』なんて言ってない。『そいじゃ』の聞き間違いだよ」「え〜そうかな〜。『そしゃ』って言ったじゃん」うん。言った。たぶん・・・「なコトより、明日の...
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    21 分
  • ボイスドラマ「クロモジ」(後編:朝日町編)
    2026/07/03
    飛騨の山々に自生する薬木「クロモジ」。その爽やかな香りは、人の心をほっと落ち着かせてくれます。福地山の山中で出会ったひとつの出来事。何気ない日常の中で見失いかけていた想い。そして、誰かを思う気持ち。自然の恵みと人とのつながりを描いた、心温まる物語・・・【ペルソナ】・よもぎ(26歳/CV:蓬坂えりか)=カフェ「よもぎ」オーナー。漢方薬剤師。薬草を求めて奥飛騨温泉郷福地温泉の山へ入ったとき道に迷ってしまう→冷静なよもぎは薬草掘り用のスコップを岩にうちつけて、国際基準となっている山の遭難信号のリズムを鳴らす・シズル=シュウ(38歳/CV:日比野正裕)=東京で働いていたマーケティング会社を辞め、地域おこし協力隊として奥飛騨温泉郷福地温泉に移住。福地温泉を選んだのは元々化石に興味があったから。現在は信飛トレイルの活動に関わり、福地温泉の旅館を手伝いながら平湯のカフェにも集まる【シーン1:再会/カフェよもぎ】◾️SE:カフェの雑踏「よもぎちゃん、そのヘンテコな置物はなんだい?こないだから気になっとったんやけど」「これ?三葉虫のペーパーウェイトよ。レプリカだけど」「へえ〜なんか形とか大きさとかアレみたいやな。あの、ほれ、ゴキ・・」「やめてよ、マサさん。これ、オリジナルで作ってもらったのよ。世界でひとつだけのウェイトなのに」「作ってもらった?だれに?」「ないしょ」「おお、おお、すみにおけんな、よもぎちゃんも」常連客のマサさんが、三葉虫を指差してからかう。1週間前に、シズルさんが作ってくれた、ちょっぴり歪なペーパーウェィト。彼が持っている化石で型をとって作ってくれた。ここは朝日町の薬膳カフェ『よもぎ』。私はオーナーのよもぎ。今日もたくさんのお客さんで賑わっている。◾️SE:カフェの雑踏〜お客さんの来店を告げるカフェベル「いらっしゃいませ・・・あ・・シズルさん・・」「よもぎさん・・きちゃった・・・すみません・・連絡もせずにいきなり」「いえ、そんな・・大歓迎よ」「おお〜。王子様の登場やな」「もう〜。マサさん!こんど言ったらもう漢方の処方してあげないから」「あはは・・・」「さ、すわって」「はい、ありがとうございます」「まずはこれ、どうぞ」「あ・・」「トウキとクロモジの『巡り(めぐり)アロマ茶』よ」「ああ、この前の・・」「トウキは冷え性の改善、クロモジは胃腸を整えるの」「へえ〜」「クロモジっていうのは、よもぎと並ぶ朝日の至宝。このお茶は、奥飛騨と朝日のイイトコどり」「そうなんだ」「食前茶よ、召しあがって」「食前茶?」「そ。ランチ、食べていけるんでしょ」「うん!ひょっとして薬膳ランチ?」「そうよ、召しあがって」「楽しみだな〜」私がその日、シズルに出したのは、薬膳参鶏湯(サムゲタン)。レシピはもちろん、この前福地で採取した薬草たち。トウキの根、ナツメ、クコの実に、もち米を入れてトロトロに煮込む。臭み消しと香り付けにもクロモジの枝を入れてある。薬膳参鶏湯、実はあれから毎日準備してたんだ。シズルさんがいつきてもいいように、って。我ながら私って、ピュア。ふふ・・「すっごく美味しい!体中がポカポカしてくる」「そおかぁ、こんところ毎日ランチがサムゲタンだったのはこういうことかぁ」「マサさん、うるさい。ヘンなこと言ってると、蜘蛛だ淵へ引きずり込むわよ〜」「お〜こわ〜。女郎蜘蛛よもぎかぁ」「もう〜」「ねえ、よもぎさん」「なあに?」「クモダブチってなに?」「ああ、蜘蛛だ淵?そうねえ・・・よかったらランチのあと行ってみましょうか」「あ、はい」好奇心満開で私たちを見るマサさん。それを横目に、私たちはお店を出た。留守番を頼んだおばあちゃんは、何も言わずにニコニコしている。シズルのSUVで秋神ダムへ。真上から照りつける太陽は、もう夏の準備を始めていた。【シーン2:仄暗い水底より/秋神ダム・蜘蛛だ淵】◾️SE:ダム周辺のざわめき〜野鳥の鳴き声「これが秋神ダムかぁ」「蜘蛛だ淵はあのあたりかな」「ダムの底?」「メンテナンスで水抜きするときか、夏に渇水...
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    12 分
  • ボイスドラマ「トウキ」(前編:奥飛騨温泉郷編)
    2026/06/26
    飛騨の山で受け継がれてきた薬草「トウキ」。古くから女性の健康を支える薬草として知られ、人々の暮らしとともに歩んできました。福地山で起きた予期せぬ出来事。山の厳しさと優しさ。そして、人を信じる心。飛騨の自然と薬草文化を背景に描く感動の物語・・・【ペルソナ】・シズル=シュウ(38歳/CV:日比野正裕)=東京で働いていたマーケティング会社を辞め、地域おこし協力隊として奥飛騨温泉郷福地温泉に移住。福地温泉を選んだのは元々化石に興味があったから。現在は信飛トレイルの活動に関わり、福地温泉の旅館を手伝いながら平湯のカフェにも集まる・よもぎ(26歳/CV:蓬坂えりか)=カフェ「よもぎ」オーナー。漢方薬剤師。薬草を求めて奥飛騨温泉郷福地温泉の山へ入ったとき道に迷ってしまう→冷静なよもぎは薬草掘り用のスコップを岩にうちつけて、国際基準となっている山の遭難信号のリズムを鳴らす【シーン1:遭難信号】◾️SE:森の中の野鳥=スコップを岩に打ち付ける音/「カン!」と1回鳴る「え?いまの音・・・」◾️もう一度スコップを岩に打ち付ける音/「カン!」と1回鳴る「7、8、9・・・まさか・・・」◾️スコップを岩に打ち付ける音/「カン!」と1回鳴る(以降等間隔で合計6回鳴る)「1分間に6回・・間違いない、救難信号だ」山岳遭難信号。これを使うということは、熟練のハイカーか・・とにかく、音のする方向を見定めよう。◾️スコップを岩に打ち付ける音/「カン!」と1回鳴る(合計6回まで)雨上がりの奥飛騨温泉郷・福地温泉(ふくじおんせん)。立ち込める霧の彼方から、かすかな遭難信号が響いてくる。私の名前はシズル。福地温泉を拠点とする地域おこし協力隊だ。かつては、東京・丸の内で働くAI分析アナリスト。その仕事を辞めて、福地に移住してきたのが3年前。移住の目的は、地域おこし協力隊。福地温泉の旅館を手伝いながら、奥飛騨温泉郷の魅力を発信している。もともと子どもの頃から、筋金入りの化石オタクだった。部屋にはアンモナイトの置物が鎮座している。福地温泉に移住したのも、日本最古の化石が発見された場所だから。とはいえ、化石発見エリアの一の谷(いちのたに)へは、立ち入りが厳しく禁じられている。私は午後から、『福地化石遊歩道』の安全点検をしていた。◾️スコップを岩に打ち付ける音/「カン!」と1回鳴る(以降60秒おきに6回鳴る)「1分間の静寂のあと・・・再度発信」国際基準通りだ。あの音・・・高く澄んだ、小さな鐘のような音・・・岩に打ちつけている・・でもペグやサバイバルナイフじゃない。鉄製のハンマー?いや、もっと薄い・・・スコップかな。なんとか日が暮れる前に見つけてあげないと・・◾️スコップを岩に打ち付ける音/「カン!」と1回鳴る(以降60秒おきに6回鳴る)遊歩道から見て、上の方の斜面。福地山(ふくじやま)の深い森の奥から音が響いてくる。1メートル先も見えないような深い霧。私は音のする方へ、急ぎ足で向かった。と、霧の中から現れたのは、剥き出しになった石灰岩の岩盤。音はこの岩に反響している。そのまま歩くと、すぐに見えてきたのは、登山道の入口。それは毎日のように歩いている道。私は一気に坂を駆け上がった。はあっ、はあっ。◾️スコップを岩に打ち付ける音/「カン!」と1回鳴る(以降60秒おきに6回鳴る)音が徐々に大きく、クリアになってくる。テンポは・・少し不規則になってきたかな。疲れてきているんだろう・・・急ごう。と、リズムが乱れ始める。もう少しだ。がんばれ。ん?音が真横になった・・あそこだ。あの枯れ沢の斜面。誤って足を踏み入れたか、滑り落ちたのかも。私は、登山道から離れた斜面を駆け降りる。音はどんどん近くなる。よし、そろそろいいだろう。『おお〜い!聞こえるか〜!』『こっちよ〜!』間髪入れずに明るい声が帰ってくる。女性?私の頭の中には、自撮り棒を持つ山ガールの姿が浮かんでいた。【シーン2:発見】◾️SE:日が落ちかけた森のざわめき『ありがとうございます』ベンチほどの小さな岩。体を斜めにして腰掛ける女性。この岩...
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    17 分
  • ボイスドラマ「いつかの弁当」
    2026/06/19
    マッチングアプリで元上司とブラインドデート!?不器用すぎる大人の恋の物語【ペルソナ】・さくら(CV=29歳:岩波あこ)=静と同じ市民課に務める市職員。彩羽にとっては相談できる唯一の女性・彩羽(いろは=18歳/CV:坂田月菜)=高校生のとき東京から高山市街地へ引っ越してきて、卒業後は高山市役所市民課で働く市職員・静(しずか=61歳/CV:日比野正裕)=大学新卒以来高山市役所市民課で働く生え抜きの市職員【プロローグ:市役所の休憩室】◾️SE:休憩室のざわめき/お湯を沸かす音など「いただきま〜す」「まあ、おいしそうなお弁当」「あ・・さくらさん・・」遅い昼食をとろうと休憩室に入ると新人の彩羽と目が合った。ちょうどお弁当を食べようとしていたらしい。「お疲れ様です!」私はさくら。高山市役所で働く市民課の戸籍係。彩羽は住民登録係だから、仕事上はそんなに接触はないんだけど・・いや。それは違うわね。ちょっと前までは接触どころか、彩羽のおうちでご飯まで食べるような関係だったし。実は、彼女のお祖父様が、私の元上司。詳しいことは、前編の『最後の弁当』『最初の弁当』を聴いてね。「さくらさんもいまからお昼ですか?」「うん。遅くなっちゃったけど・・彩羽さんも?」「はい。朝からずっとバタバタして・・マイナンバーの申請とかいっぱいで」「それ、こも豆腐?」「そうです・・」「ひょっとして・・・部長・・いえ、おじいさまの手料理?」「はい!」「すごいわねえ、部長、じゃなくて、おじいさまも」「部長でいいですよ。その方があの頃を思い出してワクワクするし」「ごめんなさい。じゃ、お言葉に甘えて」「こも豆腐って珍しいんですか?」「ううん、その逆。むしろ、高山のソウルフード」「へえ〜」「お豆腐を”こも”に包んで、茹でてから出汁で煮込むの」「”こも”?」「わらで編んだむしろよ。ほら、お豆腐の表面にわらの模様があるでしょ」「うん」「ほんのり、わらのいい香りもしない?」「ホントだ〜」「お祝いごととか、ハレの日に出すお料理なのよ」「知らなかった〜」「あ、それと・・飛騨牛のしぐれ煮も」「そう。私が美味しい!って言ったら、毎日お弁当に入れてくれるの」「へえ〜」「汁気をしっかり切ってご飯に乗せてるから、お肉がしっとりして美味しいんだ〜」「部長って・・・彩羽さんにはホント、優しいのねえ」「・・さくらさん・・・」「なあに?」「あの・・・さくらさんに相談したいことがあるんですけど・・・」向き直った彩羽が、急に真面目な顔になる。「今日・・・役所が終わってから少し話せませんか?」「いいわよ。じゃあ・・・あそこにする?あの・・なんだっけ・・・名前のない・・カフェ」「やった。前から行きたかったんだ、あのお店」彩羽は、私の返事を聞くと、安心したように声を弾ませた。「抹茶バスクチーズケーキ!食べたーい!」【シーン1:名前のないカフェ】◾️SE:カフェのガヤ「どうしたの?彩羽さん食べないの?チーズケーキ」「はい。お腹は減ってるけど・・・おじいちゃんのこと考えると・・」「え?」「考えれば考えるほど、胃が痛くなりそう」※急に深刻になり身を乗り出す「部長、どうかしたの?まさか・・どこか悪いとか?」「いや、実は・・・さくらさんにお願いしたいことがあるんです・・・」「お願い?」※悩んだ末に思い切って「あの・・・おじいちゃんを止めてください!」「え?なに?いきなり・・」「このままだと、マッチングアプリに結婚させられちゃう!」「ちょっとちょっと。話がよく見えないわ。落ち着いてお話して」「はい・・あ・・ごめんなさい」「マッチングアプリって?」「恋人とか結婚相手を探すやつです」「そんなことは知ってるわ」「おじいちゃん、私が働き初めてから毎日お弁当作ってくれてるんですけど」「そうね」「毎朝、朝市で食材買いに出かけるの」「まあ」「で、野菜売ってるおばちゃんと仲良くなって」「ああ、あのおばちゃん?」「はい。それで、おばちゃんから、独り身でいるのは大変だからって」「え?それで?」「マッチングアプリに登録...
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    20 分
  • ボイスドラマ「if。君のその手に触れられたら」
    2026/06/12
    もし、あの日、古い町並で“あの音”を聞かなかったら。飛騨高山の伝統工芸「一位一刀彫」をテーマに描く青春ボイスドラマ。【ペルソナ】※Yew(ユウ)は一位の木の英語名/marja(マリヤ)は一位の木のフィンランド語名・ユウ(17歳)/山﨑るい=高根町で生まれた少年/市街地の叔父の家に居候して高校へ通う。市街地の工房で出会ったアッシュに一目惚れして軽い気持ちで一位一刀彫に興味を持つ・アッシュ/本名はアストリッド(18歳)/山﨑るい=フランス人の留学生。ワーキンングホリデーで出会った一位一刀彫に魅せられて本気で修行したいと思い文化活動ビザ取得を目指す・マリヤ(17歳)/岩波あこ=ユウの遊び仲間/ユウに好意を寄せるが告白していない・親方(68歳)/日比野正裕=一位一刀彫の職人。飛騨の匠・先生(40歳)/日比野正裕=優しいめがねをはめた先生[シーン1:古い町並】◾️SE:古い町並の雑踏「Je suis désolée.」※アッシュの声(CV:リア)=https://hidaten.com/wp-content/uploads/2026/05/Aicha-Lea.mp3「え?」「何語?」「フランス語でしょ」古い町並に面した一位一刀彫の工房。通りから見えるところで、女の子がノミをふるってる。思わず声をかけたら、振り返ったのはなんと・・・金髪の女性だった。「ちょっともう〜。行くよ、ユウ!」横で怖〜い顔してボクを睨んでいるのは、同級生のマリヤ。怒ると怖いんだよなあ。そのやりとりを見ていた、ブロンド女子が笑ってる。ボクの名前はユウ。生まれた家は高根町。市街地の叔父さんちから高校へ通う一年生。入学したのは今年の4月。部活は帰宅部。放課後はいつも寄り道して、古い町並で遊んでる。で、ボクと同じように古い町並をぶらぶらしてたのがマリヤ。話しかけたら、同じ高校の同じ一年生だったんだ。どこに住んでるの、って聞いたら・・「荘川よ」「へえ〜」「放課後どんなに急いでも1時間以上バスを待たなきゃいけないの。だからいつもブラブラしてる。あんたは?」「ボクは帰宅部。実家は高根だけど、市街地のおじさんちに居候」「荘川と高根じゃ、真逆ね。はは・・」という感じで、意気投合。以来ほとんど毎日、2人で古い町並を徘徊。今日も今日とて歩いてたら、聞きなれない音が聞こえてきた。耳をすましたら、なんとノミの音。あとから聞いたら一位一刀彫っていうらしい。工房が公開されてて、実演をしてた。職人さんは若い女の子っぽい。藍染めの作務衣に、頭に巻いた白い手ぬぐい。脇目も振らず一心不乱にノミをふるう。その仕草にボクの目は釘付けになっちゃって・・それで、つい声をかけちゃったんだ。まさか金髪女子とは・・・少し気恥ずかしくて、足早に立ち去るボクとマリヤ。「行くよ、ユウ」背中越しに、フランス語が聞こえてきた。「Salut!」※アッシュの声(CV:リア)=https://hidaten.com/wp-content/uploads/2026/05/Lea.mp3なんか、周りの観光客にも笑われてるような気がして。高山駅までの間、マリヤはずうっとボクを睨んでいた。[シーン2:古い町並の公開工房】◾️SE:古い町並の雑踏「ハーイ!ユウ!マリヤも!」笑顔でアッシュがボクたちを出迎える。奥の親方は相変わらず怖い顔。アッシュというのは、ブロンドの女の子。マリヤが言ったように、フランス人だった。翌日。結局ボクたちは・・っていうかボクは、アッシュに魅せられてまた、工房へ行ったんだ。マリヤはあきれてたけど、ついてきた。アッシュは、一位一刀彫の工房で働く、見習い職人。見習い、とはいっても、この夏でもう一年になるらしい。で、どちらからともなく、話をするようになって・・・あ、もちろん、日本語でね。彼女、アッシュは、英語、フランス語、日本語がペラペラなんだ。(※以下、流暢な日本語で)「私、去年の夏に、高山へ来た。ワーキングホリデーね。最初は外国人観光客向けのゲストハウスで働いてたの。お休みの日に、この工房で実演を見てすごくショック受けた」「なんで?」「フランスにも木彫りってあるんじゃないの?」「あるよ。でも全然違う。フランスの木彫りはまず先に粘土で模型を作る。それから彫刻刀とヤスリで磨き上...
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    17 分
  • ボイスドラマ「初恋」
    2026/06/05
    8歳の春、さくらと出会った少年・澪桜。それから7年――。15歳になった澪桜のそばには、いつも支えてくれる同級生・若葉がいた。ある日の放課後。春の嵐が荘川を襲う中、若葉は澪桜のために傘を届けようとする。国の天然記念物「荘川桜」を舞台に描く、切なくて優しい青春ラブストーリー・・・【ペルソナ】・澪桜(れお/15歳/CV:岩波あこ)=東京から荘川へ引っ越してきた少年。東京ではいじめを受けていたPCオタク。保小中一貫教育の学校でみんなが顔見知りという環境からなかなか友達ができない。その反動もあって、同級生たちの自慢で国の天然記念物でもある荘川桜を妬ましく思う・若葉(めい/15歳/CV:岩波あこ)=澪桜の同級生。密かに澪桜を慕っているが、表立って告白したりはしない。影でいつも澪桜を応援し、味方になってくれる・荘川さくら(年齢不詳/CV:岩波あこ)=荘川桜の精。自分の姿が見える者には優しく接する【シーン1:中学校の教室】◾️SE:教室のチャイム『澪桜くん、付き合ってください!』「ごめん」『え・・』ああ、まただ。今月に入ってこれで3人目。いや、ホント・・わざわざ告ってくれる女子には申し訳ないんだけど・・・誰かと付き合うとか、ないから。だけどオレ、そんなに彼女に見えるのかなあ・・廊下で一部始終を見ていた若葉が笑う。オレの後ろの席の女子。いや。顔は笑ってないけど、心は笑ってる。オレにはわかる。絶対そうだ。若葉は・・・六厩(むまや)に住んでる。冬、お天気お姉さんが、”今朝の高山市内で最低気温が一番低いのは・・”って伝えるとこ。中学入る前に国府から引っ越してきて・・・だから、中学入ったとき、若葉には友だちが一人もいなかった。ここは、保育園から小学校、中学校まで一貫教育だからな。8歳で東京から越してきたオレと一緒だ。なんか境遇が似てたから、自然と話すようになって、今に至る。オレの名前は澪桜。荘川の中学校に通う三年生。特に仲のいい友だちというのはいなくて・・・話せるのはやっぱ、若葉くらい。ま、どーでもいーけど。おっと、もうこんな時間。よしっ。駆け足で下駄箱へ。外へ出ようとするオレに、「澪桜」後ろから声をかけてきたのは・・「どこ行くの?」「若葉・・」「あんた、今日掃除当番でしょ」「え?違うし」「3日前に谷口くんに代わってもらってたじゃない」「あ・・」「今日は谷口くんの当番だから、澪桜が代わってあげなきゃ」「あ〜っ!そっかぁ〜」「なに?用事あんの?」「うん・・まあ」「ま〜た、荘川桜?」「いや・・まあ・・・そうだけど・・・」「しょうがないなー。私が代わってあげるから、行ってきたら?」「ホントか?」「疑うんならやめよっかな・・」「ごめんごめんごめん。ありがと!若葉!マジで助かる!神!今度ジュース奢るわ」「リアクションでか!ま〜ったくアキもせずによく行くわねー、毎日毎日」「まあな」「さあ、先生見回りに来ちゃうから早く行って!」「やばっ、んじゃ行くわ。じゃあな、若葉。また明日!」「いってらっしゃーい」オレは慌ててチャリ置き場へ。ん?なんか若葉って、いつもオレを助けてくれてんじゃね?ほかの友だちは、毎日荘川桜公園に行くっていったら、アイタタタ・・って笑ってたのに。やっぱ持つべきものは友だわ(笑)結局、自転車をベタ漕ぎして、荘川桜公園に着いたのは30分後だった。【シーン2:荘川桜公園】◾️SE:小鳥のさえずり『今日は早かったわね、澪桜』荘川桜の下でさくらがオレを迎えてくれる。さくらは7年前、8歳のときからの友だち。不思議なことにオレ以外の人には見えないみたいなんだ。こうやってちゃ〜んとここにいるし、手にも触れられるのに。あ、触れられるって言っても、触ってくるのはさくらだけど。見たとおり、オレよりずうっとお姉さん。歳をきいても教えてくれない。500歳以上離れてるから数えられない、ってわけわかんないこと言って・・オレは中学に入っても、放課後はほとんど毎日、荘川桜公園に行く。町屋(まちや)にある家とは反対方向だけど。どうせ、帰っても誰もいないし。介護福祉士のママは...
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    15 分
  • ボイスドラマ「澪桜」
    2026/05/29
    東京から荘川へ引っ越してきた8歳の少年・澪桜。新しい学校に馴染めず、孤独を抱える彼の前に現れたのは、荘川桜の精を名乗る不思議な女性「さくら」だった――。国の天然記念物「荘川桜」を舞台に描く、春のファンタジー。春風と桜吹雪の中で紡がれる、“優しさ”の物語をぜひお聴きください。【ペルソナ】・澪桜(れお/8歳/CV:岩波あこ)=東京から荘川へ引っ越してきた少年。東京ではいじめを受けていたPCオタク。保小中一貫教育の学校でみんなが顔見知りという環境からなかなか友達ができない。その反動もあって、同級生たちの自慢で国の天然記念物でもある荘川桜を妬ましく思う・荘川さくら(年齢不詳/CV:岩波あこ)=荘川桜の精。自分の姿が見える者には優しく接する【シーン1:荘川桜公園】◾️SE:小鳥のさえずり『なにしてんのぉ?』「えっ」『だめじゃない。空洞(うろ)に花びらなんて詰め込んじゃ。くすぐったいわ』びっくりしたぁ。こんな朝早くの荘川桜公園。誰もいないと思っていたのに。いきなり声かけてくるんだもん。着物きた女の人・・振袖に桜の花が咲いてる。成人式?・・はとっくに終わってるよね。ピンクの長い髪が春風にたなびいてる。『どこの子?見ない顔ねえ』もう・・うるさいなあ。おばさんには関係ないだろ。『おばさん?って、誰のこと?』「えっ?いまオレ、声出してないのに・・・」『や〜っとお口開いた』「なんだよ、おばさん」『おばさんなんてどこにいるの?』「いるじゃん、そこに。お、ば、さ・・うっ・・・」口に桜の花びらがくっついて・・・しゃべれない・・手で口を塞いでるみたいに。『ふふ・・おいたはダメよ』なんなんだよ、このおばさ・・・おねえさんは・・・『そうそう。最初からそう呼んでくれればいいのに』「ぺっ、ぺっ。もうわけわかんないよ」『きみ、どこから来たの?清見?国府?市街地?』「東京」『トウキョウ?それどこ?』「東京も知らないのかよ。ここ荘川から直線距離で215 km東」『へえ〜ボク、物知りなのね』「ボクって呼ぶな」『じゃあなんて呼べばいいの?』「レオ。『ミオ』っていう字に『桜』って書いてレオ」『まあ、私とおんなじ名前』「え?おば・・おねえさんは?」『私はさくら。ね、一緒でしょ』「どこが。おんなじなのは『桜』だけじゃねえか」『澪桜はどうしてここへ来たの?荘川桜公園へ』「引っ越してきたんだ」『そう。おうちは?』「町屋(まちや)ってとこ」『荘川の中心ね〜。素敵じゃない』「おねえさんは?どこに住んでるの?」『ここよ。荘川桜だもの』「ふうん」『私も引っ越してきたのよ。65年前に』「どこから?」『あそこ』「え?」そう言っておねえさんが指差したのは、川。ってか、ダム?『そうよ。昔住んでいたとこは、あの水の底』「そうなんだぁ」『澪桜はどうしてひとりでいるの?おかあさんは?』「ママは高山の老人ホームだよ。夜まで帰ってこない。介護福祉士だから」『カイゴフクシシ・・・?澪桜は難しい言葉知ってるのね』「そんなん誰でも知ってるじゃん。知らないのは、おば・・おねえさんだけだし」『さくら』「え?」『さくら、って呼んで』おねえさんはニッコリ微笑んだ。ボクは顔をまっかっかにして黙り込む。屈んでボクの顔を覗き込むおねえさん。桜色の髪の毛がふわっと風に舞った。『じゃあお友だちは?お友だちと遊ばないの?』「友だちなんて・・・いない」『どうして?学校、行ってるんでしょ』「行ってるけど」『学校ってほら、みんな楽しそうに遊んでるじゃない』「みんなはね」『どういうこと?』ボクは荘川桜の根元に座り込む。おねえさんも、ボクの横に座った。って、えっ?着物、汚れちゃうよ、おねえさん。『さくら』「さ、さくら。ねえ、着物に土がついちゃうじゃん」『大丈夫。この着物は汚れないから』「へ?」『それより、”みんなは”楽しそう、ってどういうこと?澪桜は楽しくないの』「だって・・」『話してよ』さくら・・顔、近いって。『学校が嫌いなのかな』「違うよ。ここの学校は、保育園から小学校、中学校までずうっと一緒なんだ」『うん、知...
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