• ボイスドラマ「子猫のワルツ〜おばあちゃんに救われたアタシはユニカ!」
    2025/09/03
    ひとり暮らしのおばあちゃん・エレナと、拾われた子猫・ユニカのあたたかい日常に潜む、小さな“電気トラブル”。ゲームに夢中な孫・スカイと、優しさゆえに危うい行動をとってしまったおばあちゃん。その先に待ち受けていたのは——ブレーカーが落ち、部屋が暗転し、そして・・・家族の絆と、地域の支えの大切さを描く、優しさがめぐる小さな奇跡の物語・・・【ボイスドラマ「子猫のワルツ」】【ペルソナ】・ユニカ(猫)・・・おばあちゃんが拾ってきた子猫。おばあちゃんの話し相手・エレナ(おばあちゃん)・・・車にひかれそうになっている子猫を拾ってユニカと名付ける・ベイス(高浜電工一般住宅部)・・・普段から1人暮らしのおばあちゃんを家族のように気にしている・スカイ(孫)・・・父母は共働きで家にいない。おばあちゃんちでゲームをするのが日常<シーン1/出会い>▪️クラクションの音「あぶない!」間一髪アタシの命を救ってくれたのは一人のおばあちゃん。ママとはぐれたアタシは、419(よんいちきゅう)の車線にフラフラ飛び出していたの。こ〜んなに車の交通量が多いなんて知らなかったんだもん。気がついたら向こ〜〜〜の方にいたはずのクルマが目の前にきてて・・▪️急ブレーキの音「止まって!」おばあちゃんは車道に出て両手を広げる。クルマは急ブレーキをかけてアタシたちの前で止まった。運転手さんの怒鳴り声に頭を下げるおばあちゃん。こちらを振り向くと、ニッコリ笑う。そのままサッとアタシを抱っこして歩道へ。クルマの流れはいつものようにまた、途切れなく走り始めた。「よかったねえ、無事で」これが、アタシとおばあちゃんの出会いだった。「もう心配いらないから。一緒に帰ろう、うちへ」こうして、アタシとおばあちゃんの同居がはじまった。<シーン2/アタシはユニカ>▪️小鳥のさえずり「ユニカ」え?だれだれ?アタシのこと?やだ、かわゆい名前。おばあちゃんはアタシの名付け親になった。おばあちゃんの名前はエレナ、って言うんだって。「ユニカ、お腹すいたのかい?」ううん、違うよ。ゴロゴロ喉を鳴らしているのは、もっとおばあちゃんのそばにいたいから。「よしよし、すぐにご飯にするから」「ちょこっとだけ、待っててや」やだやだ、まだおばあちゃんのおひざの上でゴロゴロしていたい。いつもシュッとしてて、イケテる、エレナばあちゃん。ステキだなあと思ったら、昔キャビンアテンダントだったんだって。キャビンアテンダント、ってなんだ?<シーン3/天敵スカイ>▪️玄関が開く音/ガラガラガラ〜「ばあちゃん!きたよ!」わ、きた。こいつはおばあちゃんの孫。スカイ、って言うんだけど、アタシ、苦手。だって、いつも、きったない手でアタシの顔を撫で回すんだもん。「ユニカ、おいで」ふん、だぁれが行くか。「ほら、こっちこい」あっ、おい。ずるいぞ。首の後ろを持つなんて。それキライなんだってば。「こら、スカイ。ユニカが嫌がっとるじゃろ。離してやれ」「ちぇっ、つまんない」「さ、ユニカ。お庭で遊んでおいで。は〜い。あ、スカイのやつ。アタシを解放したら、とたんにゲーム始めちゃって。肩を叩くとか、お掃除手伝うとか、ちゃんとばあちゃん孝行しろ。しかもタコ足配線でスマホの充電するな〜。歩きにくいじゃんか。あ〜、縁側気持ちよき〜。お庭よりこっちの方が好き。気持ちよすぎて、あ、まぶたをあけていられない・・・▪️夕暮れ/カラスかツクツクボーシの声ハッ。やだ、もうお外暗くなってる。おいおい、スカイ。いつまでゲームやってんだよ。エレナばあちゃんは?キッチン?あ、アタシのために、お湯を沸かしてくれてるんだ。ポットで・・・ミルク作ってくれるの?おばあちゃん、大好き。「おい、スカイ。こんな暗いとこでゲームやっとったら、目がわるなるぞ」「電気つけてあげるよ」▪️壁のスイッチ/カチッ「あれ?つかない?」「ああ、それ。夜豆電球にしたから、チェーンひっぱらんとつかんわ」「僕の背じゃ届かない」ったく。しかたないなあ、もう。よいしょっと、ハイジャンプ・・・...
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    11 分
  • ボイスドラマ「ブザービート〜跳べ!高く!空の果てまで!」
    2025/09/03
    高浜電工で働く父・ベイスと、バスケットボールに情熱を注ぐ息子・スカイ。かつて病院へ駆け込んだ小さな背中は、今や空へ跳ぶキャプテンに。設計技師として天井クレーンを動かす父と、体育館のリングを目指す息子。小さな町で生まれた、親子の軌跡が交差する感動のストーリー。クライマックスは奇跡のラストシュート「ブザービート」!聴き終えた瞬間、きっとあなたも空を見上げてしまう・・【ボイスドラマ「ブザービート〜跳べ!高く!空の果てまで!」】【ペルソナ】・スカイ(息子/15歳)・・・高浜市の中学3年生。バスケ部。体は小さいけどジャンプ力は抜群・ベイス(父/42歳)・・・高浜電工機電部所属。天井走行クレーンなどの設計・施工技師・エレナ(母/43歳)・・・専業主婦。元CA。ベイスと同じくスカイの良き理解者<シーン1/走れ!ベイス>※ベイスのモノローグ▪️虫の声/走る足音「しっかりしろ。もうすぐ病院着くからな」息子のスカイが背中で苦しそうに息をする。子供の発熱は珍しいことじゃないけど、親としてはほっとけない。高熱を出して苦しむ息子を背負って、近所の診療所へ走る。息子の体の熱と、背中に感じる小さな手のぬくもり。”大丈夫だ。お前は強い子だから”呼び鈴を押すと病院の電気が点いた。医師に促されて診察室へ。検温、呼吸・皮膚・顔色・表情の確認。アレルギーの有無も伝える。ひと通りの検査を済ませ、結局、ただの風邪とわかってホッとする。と同時に全身から力が抜けて、へたりこんでしまった。オレの名はベイス。高浜電工の機電部で天井走行クレーンの設計・施工をする技師だ。2年前、息子が生まれてから、なにかあるたびに病院へ走る。小さな町なので、車より走った方が早い。と、自分では思っている。まあ、とにかく無事でよかった。<シーン2/天井走行ホイストクレーン>※ベイスのモノローグ▪️トラックの走行音あれから13年。あんなに小さかった息子も、今では中学でバスケットボールの選手だ。今朝も元気よく学校へ出かけていった。積車に載せた高所作業車スカイタワー。完成間近の新工場で高所作業車スカイタワーを走らせ、天井走行するクレーンをチェックする。オレはいま、高浜電工で、大手自動車部品メーカーを担当している。この秋竣工、来年稼働する新工場の天井走行ホイストクレーン。高浜電工の敷地内にある工場でシミュレートしながら施工に向けてトライ&エラーを繰り返してきた。今回はアモルファス変圧器も採用して工場の省エネも考えている。巨大な工場の天井に設置されるレール。その上をホイストクレーンが縦横無尽に動き回る。想像するだけで胸が熱くなってきた。オレにはやっぱり、設計技師のDNAが備わってるんだな。<シーン3/跳べ!スカイ>※スカイのモノローグ▪️体育館の雑踏/練習風景「跳べ!もっと高く!早く!」自分に気合いを入れる掛け声。魔法の言葉が体育館に響き渡る。練習を始める前は、いつもこの言葉で気合いを入れるんだ。父さんから教えられた言葉だけど。ボクはスカイ。中学3年生の15歳。バスケ部のキャプテンをやってる。身長は部員の中で一番低い。けど、そんなの関係ない。中学に入って始めたバスケットボール。父さんはいつもボクに、「跳べ!高く!空の果てまで!」と言った。だから、ボクは誰よりも高く飛ぶ練習をした。ランニングや基礎練習が終わると、ひたすらジャンプの反復練習。最初は、ゴールにすら届かなかった。リングに向かって何度も何度も飛ぶ。ある日、顧問の先生がボクを呼び出した。「スカイ、お前のジャンプは滞空時間が長い。その滞空時間で、相手のブロックをかわせる」それからボクの練習メニューはガラリと変わった。フローターシュート。ディフェンスに囲まれたゴール下で、ボールを浮かせてシュートを決める。ブロックされても、ボールを奪われても諦めない。空中で一瞬だけ静止するような感覚。それを掴みたくて、必死に練習した。”いつか、このジャンプでダンクを決めてみせる”夢はおっきい方がいい。レギュラーメンバーになったのは、中学2年の夏。...
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    15 分
  • ボイスドラマ「ホワイトハッカー〜高浜に住むJKはなんと国家の秘密機関に所属するホワイトハッカーだった件」
    2025/09/03
    地元・高浜の高校に通う女子高生ユニカ。だが、その正体は国家直轄の極秘機関に所属する"ホワイトハッカー"だった──。家ではお気楽な母・エレナと、無口で不器用なシステムエンジニアの父・ベイスと平和に暮らすユニカだが、ある日突如、ハッカー集団からの脅迫メッセージが届く。国家機密が危機にさらされる中、彼女が頼ったのは、誰よりも近くにいた“冴えない父”だった。父と娘の知られざる共闘が、今はじまる!テーマは「家族と信頼」「日常と非日常の交錯」耳で聴くセキュリティ・ドラマ、ここに爆誕!【ボイスドラマ「ホワイトハッカー」】【ペルソナ】・ユニカ(娘/15歳)・・・地元高浜の高校に通うJK。実は中学生のときにスカウトされて国家的なサイバーアライアンスに所属し、クライアントを多数かかえるホワイトハッカー。企業のセキュリティホールの修復や外部の攻撃からシステムを守っているがその事実は誰も知らない。・エレナ(ママ/35歳)・・・娘のユニカとは友達同士のような関係の能天気お気楽ママ・ベイス(パパ/45歳)・・・高浜電工装置制御部所属。取引先の産業用ロボット・セラミックス製造ラインの自動制御、さらには街のインフラを支える機械設備関連の自動制御を担当するシステムエンジニア<シーン1/ホワイトハッカー>▪️朝の小鳥のさえずり/食卓の音「ユーニカー、今度の週末、夢の国に遊び行かなーい?」「え〜、ママまたぁ?先月行ったばっかりじゃん」「てかもう一ヶ月以上間(あいだ)があいてるのよ。そんな毎日毎日、おうちでゲームばかりしてないでさあ」「アタシ学校ちゃんと行ってるもん。引きこもってなんかないし」「どーしたらいいのー、この夢の国ロス」ロス、って。そんな死語・・ママとアタシは年が20個しか離れてないから、ほとんど姉妹みたいな感じ。「そのゲーム、そんなに面白いならママにもやらせて」おっと・・このゲーム、ただのシミュレーションゲームじゃないんだなー。アタシの名前はユニカ。15歳。地元・高浜の高校に通う一年生。というのは表の顔で、実は!大きな声では言えないけど、アタシはホワイトハッカー。政府直轄の極秘機関「国家サイバー防衛機構/アライアンス」に所属してるの。ホワイトハッカー。知ってるよね。サイバー攻撃から企業や組織を守る、正義のハッカーだよ。国家レベルのサイバーテロから日本を守る最後の砦、って言われてる。アタシ、幼稚園行く前からパパに教えてもらって、いっつもプログラミングしてたんだ。そしたら中学卒業するときに、いきなりスカウトされて。えっ?給料?そこ?ま、好きなゲームを大人買いできるくらいはあるかな。でもって、このオンラインゲーム『クロノス・レガシー』はね、アタシが開発したシミュレーター。実在のサイバー空間をモデルにした、防衛シミュレーターよ。ゲームやってるように見えるけど、現実のセキュリティホールやハッカーの動向を分析してツブしてるんだ。ゲーム内で敵を倒せば、現実の悪質なハッカーを追跡・無力化する。プロセスと同期して現実世界のセキュリティ強化につながるのー。「よっしゃぁ!ステージクリア!次はスタックオーバーフローを起こすトラップだぁ」「なんか、チョー難しそうなゲームねえ。ママには無理っぽい」「ママ、今日パパは?」「あら、まだ寝てるの〜。ユニカ、ちょっと起こしてきて」「え〜。めんどくさ〜」「なんかいま大きな開発にかかわってるって・・疲れてるのよ」「ふうん。ま、どーでもいいけど」「それより、夢の国は〜?」アタシのパパは、高浜電工の装置制御部ってとこで働いてる。前に『どんなお仕事?』って聞いたときは、セキュリティの関係で言えない、って言ってた。な〜んか、感じわる〜。んなこと言って、どうせ、たいしたことしてないんでしょ。いっつもドジでどんくさいパパなんだから。ハッキングして調べてやろうかと思ったけど、ファイアウォール破れなかったんだよね。「パパ〜!ご飯だよ〜!降りてきなさ〜い!」「めんどくさがらずに起こしてきてあげて」「だる〜」▪️部屋の階段を...
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    14 分
  • ボイスドラマ「フライトナイト〜キャビンアテンダントと電気技師の純愛」
    2025/09/03
    国際線CAとして働くエレナ、雷雨の夜に高浜の病院を救う夫・ベイス、そして機内で命を救った女性医師。それぞれの「おかえり」を描く心温まる物語です。飛行機のドクターコールから始まった物語は、思いがけない再会と未来への希望へとつながっていきます。高浜電工と空の仕事、それぞれのプロフェッショナルが交差する一夜。「お疲れ様」「元気だよ」——手話で交わす夫婦のサインが胸を打つストーリー【ボイスドラマ「フライトナイト」】【ペルソナ】・エレナ(妻/28歳)・・・国際線のキャビンアテンダント。高浜市在住。4勤2休のローテで働く・ベイス(夫/27歳)・・・高浜電工電気工事部所属。工場・ビルなどの受電電気設備など請け負う・スカイ(医師/60歳)・・・リタイアした医師。娘の病院を手伝うために愛知県へ<シーン1/お客様の中に・・>▪️飛行機機内のアテンションコール「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」ドラマでしか聞けないようなセリフ。まさか自分のフライトで言うことになるとは・・・私の名前はエレナ。某航空会社の国際線キャビンアテンダント。それはプーケットからセントレアへ戻る夕方の便の中だった。4勤2休の4日目。明日からは夫のベイスと過ごす2日間。セントレアへ着いたらダッシュで家に帰ろうと思ったのに。5分ほど前。『15列の妊婦さんがハイパーベンチレーションで・・』と、エコノミークラス担当の後輩が、私に声をかけてきた。ハイパーベンチレーション、というのは過呼吸のこと。私は平静を装いながら、狼狽する後輩を落ち着かせ、乗客の元へ。30代くらいの女性が口元を押さえ、苦しそうに肩で息をしている。搭乗の際、妊娠していることを申告していた女性だった。「お客様、大丈夫ですか?ゆっくり、私と一緒に息をしてください」落ち着いて声をかけたあと、機内アナウンスでドクターコール。「お客様の中に、医師の方はいらっしゃいませんか?お困りのお客様がいらっしゃいます」機内は一時騒然となった。呼びかけに応じたのは、ビジネスクラスに座る50代くらいの女性。とても上品で穏やかそうな雰囲気だ。「私は医師です。何かお役に立てることがあれば」私はお礼を言い、メディカルキットと紙袋を医師に手渡す。彼女は私の目を見て小さくうなづき、患者の元へ向かった。患者さんに対しても、穏やかな対応は変わらず、同じ目線で話をする。「もう大丈夫ですよ。落ち着いて、ゆっくり息を吸って、吐いて・・・」医師は妊婦さんに優しく話しかけ、私も隣で背中をさすりながら励ます。数分後、妊婦さんの呼吸は落ち着きを取り戻し、顔色も良くなっていった。「あのう。よろしければセントレアまでの間、私、彼女と席かわってもいいですか?」「え?」「エコノミー症候群です。ビジネスシートでゆったりくつろげば快適に飛行機から降りられますよ」私は機長に相談して了解をもらった。席の交換ではなく、空いているビジネスクラスのシートへ座ってもらう。医師の助言があればこそ。「みなさま、当機はまもなくセントレア中部国際空港に到着いたします。なお、ただいま、知多半島周辺では雷を伴う強い雨が降っております。この雷の影響により少し揺れることが予想されます。シートベルトをしめて安全な着陸にご協力ください」窓の外は厚い雲に覆われ、時折、稲妻が光っている。まあ、いろいろあったけど、今回のフライトも無事に終わりそう。気がつくと知多半島をかすめるように飛行機は旋回。セントレアのある海域へ近づいていった。<シーン2/セントレアから衣浦大橋へ・・>▪️セントレア国際線ロビーの雑踏「お疲れ様でした。引き継ぎ、お願いします」セントレアに無事着陸したけれど、私の仕事はまだ終わらない。到着口に待機していたのは空港のメディカルスタッフ。私は急病人の付き添いを引き継ぐ。フライト中の様子、発症時刻、そして機内での対応。メディカルスタッフは私から丁寧に聞き取りをする。私は、その横で付き添ってくれた医師に深々と頭を下げた。「お疲れ様でした」「先生こそ、本当...
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  • ボイスドラマ「まちのあかり〜80年前に街灯の下で出会ったアメリカ兵と戦災孤児の奇妙な友情物語」」
    2025/08/20
    「大切なものは目に見えない」1945年12月。戦争で家族を失った5歳の少年ユウジと、GHQの通訳・アメリカ兵トム。ふたりをつないだのは、1冊の絵本『星の王子さま』。点灯夫の挿絵が、少年の心に希望の“灯り”をともします・・・【story】<シーン1/1945年12月:終戦後の吉浜>■SE〜海辺の音/街灯がジリジリと音を立てる「とうちゃん、かあちゃん・・」1945年12月。終戦から4か月。灯火管制が解除された夕暮れの高浜。5歳のオレは、粗末な釣竿と釣り糸を垂らす。ハゼでもタコでもいいからなんかかからんかなあ。今日も釣れんとどもならん。もう2日、お腹になんも入れていないし。締め付けられるような空腹感。街灯の小さな灯りの中で幸せだった日々を思い浮かべていた。とうちゃんは戦争にいき、戦死。かあちゃんは名古屋の工場で空襲にあい、命を落とした。ぼっちのオレをみんなは戦災孤児と呼ぶ。かろうじて立っているような街灯。海辺の砂利道を照らす裸電球。ジリジリと音を立てて点いたり消えたりを繰り返す。淡い灯りの中でとうちゃんとかあちゃんの笑顔が、浮かんでは消える。そのとき、誰かが、肩を叩いた。『ハロー』(ボイスNo.911797)天を突くような、のっぽのアメリカ兵がオレを見下ろしている。驚いて釣竿を放り投げ、立ち上がる。こいつらが、とうちゃん、かあちゃんを・・・アメリカ兵は、睨みつけるオレを見て、両手をひろげ、歯を見せた。たどたどしい日本語で話しかけてくる。こいつは豊橋の駐屯地からきたGHQの兵士。名前は、トム。自分は日本語ができるから、通訳として日本(にっぽん)にきた。なんで日本にきたのかというと、日本の非武装化、民主化、治安維持だという。そんな難しいこと言われても、よくわかんない。オレは横を向いて無視してたけど、トムは前に回り込んできてしゃべる。根負けして座りなおすと、今度はオレの横に座った。うわ、座ってもでっかいじゃん。お相撲さんよりおっきいんじゃんか。トムはGHQのジープに乗って、高浜の瓦工場を見に来たらしい。そのあと、町の中をぶらぶらしてたら、オレを見つけたんだって。街頭の裸電球に2人の姿がぼんやりと浮かぶ。人が見たらなんと言うだろうな。オレまた村八分かなあ。ま、いいや。どうせ、誰も食べもんくれるわけじゃないんだし。なんて考えてたら、お腹がぐう、と鳴った。トムはまた、両手をひろげて、オレに何かを差し出した。お?くんくん(擬音)。これが噂の「ギ・ミ・チョコレイト」か。食べてみん、と言われて、恐る恐る口に入れる。ん?なんだこの味?はじめて食べる味・・うまい。知らんかったけど「甘い」というのは、こういうのをいうんだろうな、きっと。うすあかりの中で、オレはトムの上着に目がいく。でっかいポケットが不自然に膨らんでいた。オレの視線を見て、トムはポッケからなにかをとりだす。それは・・・一冊の本。表紙の中で、黄色い髪の少年が空を見上げている。「え、なんだん?」「リル・プリン」?なんのこっちゃ。っていう顔をしてたら、トムがまた話し出す。これは小さな王子さまが出てくるお話。フランスという国の作家が書いた童話だ。息子への贈り物にするんだと。日本に配属される前、ニューヨークという町に住む友達に頼んで、買ってきてもらったらしい。トムに言われるまま、ペラペラと本をめくる。ああ、英語だし、なんて書いてあるかさっぱりわからん。でもたまに絵が描いてあるな。挿絵?ふうん、そう言うんだ。文字なんてどうでもいいから、挿絵だけを見ていくと、変わった男の絵が現れた。長い棒を持って高いところの行燈に火を点してるのか?なんだ?これ?点灯夫?毎晩街灯に灯りをともしていく男だげな?はあ?ヒマなんだな。とは言いつつ、オレは点灯夫の挿絵にひどく興味を引かれた。オレとトムの頭の上には、挿絵のようにハイカラじゃない裸電球の街灯がチラチラしている。このぼろっちい灯りも点灯夫が点していったんだろうか・・・<シーン2/1946年1月:吉浜>オレとトムは、それからちょこちょこ会うようになった。点灯夫の挿絵から入った本だったけど...
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    19 分