エピソード

  • 双子の星
    2025/12/21

    ⭐『双子の星』朗読 – 天の川の岸辺、小さな二つの星の物語🌌🎶

    静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『双子の星』。

    天の川の西の岸に、すぎなの胞子ほどの小さな二つの青い星が見えます。あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星さまの住む、水晶でできた小さなお宮。二つのお宮はまっすぐに向い合い、夜になると二人はきちんと座って、空の星めぐりの歌に合せて一晩銀笛を吹きます。それがこの双子のお星さまの役目でした。

    ある朝、泉のほとりで大烏と蠍が争い、互いに深い傷を負います。二人は両者を手当てし、蠍を家まで送り届けようとします。その重さに肩の骨が砕けそうになりながら、時間に遅れようとも、一歩ずつ進む双子の星。またある晩、彗星に誘われて旅に出た二人を待っていたのは——。

    天上の銀の芝原と海の底の泥。透きとおる水晶のお宮と、暗い波の咆える海。銀笛の音と星めぐりの歌。小さな双子の星の前に現れるのは、光と闇、善意と裏切り、役目と災難。けれども二人はどこまでも一緒に、その小さなからだで、ひたむきに進んでいきます。

    空の泉、りんごの匂い、銀色のお月様、大烏、蠍、彗星、竜巻——幻想的な存在たちが次々と現れ、双子の星とかかわります。星の世界の情景が、透明な言葉で丁寧に描かれていきます。

    宮沢賢治が紡ぐ、天上と海底を巡る幻想の物語。双子のお星さまの旅路を、朗読でじっくりとお楽しみください。


    #星座 #童子 #歌曲

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    49 分
  • 朝に就ての童話的構図
    2025/12/14

    📖『朝に就ての童話的構図』朗読 – 霧降る苔の世界と、小さな兵隊たちの朝🌫️🐜

    静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『朝に就ての童話的構図』。

    霧がぽしゃぽしゃと降る苔の上で、蟻の歩哨がスナイドル式の銃剣を構え、羊歯の森の前を行ったり来たりしています。伝令の蟻が走ってくる。子供の蟻たちが手をひいて笑いながらやってくる。そんな霧の中、楢の木の下に突然現れた真っ白な謎の建造物。「北緯二十五度東経六厘の処に、目的のわからない大きな工事ができました」——子供の蟻たちは、歩哨の言葉を繰り返し、報告のために駆けていきます。

    蟻の兵隊たちの厳めしい世界。軍隊組織、伝令、銃剣、聯隊本部、陸地測量部——まるで人間の社会のような規律正しい営み。けれどもその眼差しの先にあるのは、苔の上の出来事。小さな世界の大騒動と、とぼけたユーモア。厳格さとおかしみが、霧の中で隣り合わせに在ります。

    霧降る薄暗い世界から、赤い太陽の昇る青い朝へ。蟻たちの視点から描かれる、苔の世界の一朝の風景。小さな兵隊たちが織りなすこの不思議な物語を、朗読でゆっくりとお楽しみください。


    #兵隊

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    7 分
  • なめとこ山の熊
    2025/12/07

    📖『なめとこ山の熊』朗読 – 雪と月光の峯々で交わる、命と命🐻❄️

    静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『なめとこ山の熊』。

    なめとこ山は霧と雲を吸ったり吐いたりする大きな山。熊の胆で名高いこの山で、熊撃りの名人・淵沢小十郎は、犬を連れて谷を渉り、峯を越えて歩きます。実は、なめとこ山の熊どもは小十郎のことが好きでした。木の上から、崖の上から、おもしろそうに小十郎を見送っています。けれども、小十郎が鉄砲を構えるときは別でした。小十郎は熊を撃つたび、こう語りかけます。「おれも商売ならてめえも射たなけぁならねえ」「てめえも熊に生れたが因果ならおれもこんな商売が因果だ」と。

    ある春の夕暮れ、小十郎は月光の中で母熊と子熊に出会います。二疋は向うの谷の白いものを見つめて語り合っています。「雪だよ」「雪でないよ」「霜だねえ」——やがて母熊が気づきます。「あれねえ、ひきざくらの花」。小十郎は音を立てないようにこっそりと戻っていきます。またある夏、樹の上の熊は小十郎に向かって叫びます。「もう二年ばかり待ってくれ」と。そして約束の二年目、その熊は小十郎の家の垣根の下で倒れていました。

    山では名人と呼ばれる小十郎も、町では荒物屋の主人の前で叮寧に頭を下げ、安い値で毛皮を買い叩かれます。豪気な山の主と、みじめな町での姿。殺す者と殺される者、それでもどこか通い合っている小十郎と熊たち。月光、雪、ひきざくらの花——自然の中で繰り広げられる命のやりとり。

    淵沢川の水音と、白い雪の峯々。なめとこ山を舞台に紡がれる、小十郎と熊たちの物語を、朗読でじっくりとお楽しみください。


    #怒り #人と動物 #月

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    34 分
  • シグナルとシグナレス
    2025/11/30

    📖『シグナルとシグナレス』朗読 – 霧に包まれた線路と、星空に誓う二つのシグナル🚂✨

    静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『シグナルとシグナレス』。

    「ガタンコガタンコ、シュウフッフッ」——さそりの赤眼が見える明け方、軽便鉄道の一番列車がやって来ます。凍えた砂利に湯げを吐き、まぶしい霜を載せた丘を抜けて走ってきます。その線路のそばには、木でできた軽便鉄道のシグナル、すなわち「シグナレス」が立っています。そして少し離れたところには、金属でできた立派な本線のシグナルが立っています。

    本線のシグナルは、シグナレスに恋をしていました。けれども二人のあいだには身分の違いがありました。本線のシグナルは金属製で新式、赤青眼鏡を二組も持ち、夜は電燈で光ります。一方、軽便鉄道のシグナレスは木製で、眼鏡もただ一つきり、夜はランプで灯ります。

    「僕はあなたくらい大事なものは世界中ないんです」というシグナルの言葉に、「あたし、もう大昔からあなたのことばかり考えていましたわ」と答えるシグナレス。けれどもシグナルの後見人である電信柱は、この想いに猛烈に反対します。その反対の声は二人の前に立ちはだかります。風が吹きつのり、雪が降り始める中、シグナルとシグナレスは悲しく立ちすくみます。月の光が青白く雲を照らす夜、霧が深く深くこめる夜、二人は星空に祈ります。

    擬人化された信号機たちが織りなす、切ない恋の物語です。汽車の音、霧、星空、そして電信柱どものゴゴンゴーゴーというざわめきが響きます。機械たちの世界は、まるで人間の社会のように、恋や嫉妬、身分の違いや社会的制約に満ちています。

    「ガタンコガタンコ」という列車の音、電信柱のでたらめな歌、倉庫の屋根の落ち着いた声が物語を彩ります。リズミカルで音楽的な言葉が響き、物語は詩のように流れていきます。遠野の盆地の冷たい水の声、凍えた砂利、霧に包まれた線路という鉄道のある風景の中で、シグナルとシグナレスは互いを想い、星空を見上げます。線路のそばの小さな世界から、やがて視線は遠く広がり、星々の中へ、宇宙へと開かれていきます。

    「あわれみふかいサンタマリヤ、めぐみふかいジョウジ スチブンソンさま」と、聖母マリヤと鉄道の父スチブンソンの名を呼びながら祈る二人。霧の中で、星空の下で、シグナルとシグナレスが見つめ合い、想いを交わすこの物語を、朗読でじっくりとお楽しみください。


    #鉄道 #月 #柱

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    47 分
  • 北守将軍と三人兄弟の医者
    2025/11/23

    📖『北守将軍と三人兄弟の医者』朗読 – 三十年の戦いを終えた老将軍と、三つの病院🏥⚔️

    静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『北守将軍と三人兄弟の医者』。

    ラユーという首都の南の黄色い崖のてっぺんに、青い瓦の病院が三つ並んで建っています。リンパー、リンプー、リンポー。兄弟三人の医者がいて、一人は人間を、一人は馬や羊を、一人は草や木を治します。白や朱の旗が風にぱたぱたと鳴る、その三つの病院の前を、今日も病気の人や、びっこをひく馬や、萎れかかった牡丹の鉢が、次から次へと上っていきます。

    ある日の朝、町の人たちは遠くからチャルメラやラッパの音を聞きました。やがてそれは近づいてきて、町を囲む軍勢となります。灰色でぼさぼさした、煙のような兵隊たち。その先頭に立つのは、背中の曲がった老将軍。北守将軍ソンバーユーです。三十年、国境の砂漠で戦い続け、ようやく凱旋してきた将軍と、九万の兵隊。けれども将軍には困ったことがありました。三十年も馬から降りなかったために、足は鞍に、鞍は馬の背に、がっしりとくっついて離れないのです。顔や手には灰色の不思議なものが生えています。王の使いを前にしても馬から降りられず、困り果てた将軍は、三つの病院へと向かいます。

    人を診る兄、馬を診る弟、草木を診る末弟。それぞれの病院で、将軍と白馬には何が待っているのでしょう。

    将軍が砂漠で歌う軍歌、「みそかの晩とついたちは 砂漠に黒い月が立つ」という詩的な言葉。馬から降りられない将軍の困惑、算数の問答、病院での出来事。深刻さとおかしみが入り混じった、独特の語り口。砂漠の乾いた空気と、病院の場面。三十年の孤独な戦いと、帰還後の人々との関わり。重く固まった身体。物語の中で、対照的なものたちが隣り合って現れます。

    三十年の旅を終えた老将軍の物語を、朗読でじっくりとお楽しみください。


    #兵隊 #狐 #月

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    46 分
  • マグノリアの木
    2025/11/16

    📖『マグノリアの木』朗読 – 霧に包まれた心の峰々と、一面に咲く白い花🌫️🌸

    静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『マグノリアの木』。

    霧がじめじめと降る中、諒安はただ一人、険しい山谷の刻みを渉っていきます。沓の底を半分踏み抜きながら、峯から谷へ、谷から次の峯へ。真っ黒でガツガツした巌、薄黒い灌木の密林、淡く白く痛い光——よるべもない世界を進む諒安の耳に、ある時声が響きます。「これがお前の世界なのだよ。それよりもっとほんとうはこれがお前の中の景色なのだよ」と。

    やがて黄金色の草の頂上に立った諒安の前で、霧が融けます。そこに広がっていたのは、一面の山谷の刻みに一面真っ白に咲くマグノリアの花でした。日のあたるところは銀と見え、陰になるところは雪のきれと思われるその光景の中で、諒安は羅をつけ瓔珞をかざった人々と出会い、「マグノリアの木は寂静印です」という言葉とともに、「あなた」と「私」をめぐる対話が交わされます。

    霧に包まれた険しい山谷と、霧が融けた後に現れる一面のマグノリアの花。苦しい道のりを一歩一歩踏みしめて進むことと、突然目の前に開ける光と白い花々。外の風景と、諒安の中の景色。けわしさと平らかさ、暗さと光、孤独と出会い——物語の中で、対照的なものたちが隣り合って現れます。

    「覚者の善」という言葉、瓔珞をかざった人々の姿、寂静印としてのマグノリア。仏教的な言葉や概念が散りばめられながら、それらは霧と光と花の風景の中に在ります。詩的な言葉と幻想的な情景が織りなす、静謐で瞑想的な世界。

    宮沢賢治が描く、霧と光と花に満ちた不思議な風景。諒安の旅路を通して立ち現れるこの幻想的な物語を、朗読でじっくりとお楽しみください。


    #植物

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    16 分
  • いちょうの実
    2025/11/09

    📖『いちょうの実』朗読 – 千の子どもたちの旅立ちの朝🍂✨

    静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『いちょうの実』。

    空のてっぺんがまるでカチカチに焼きをかけた鋼のようにつめたく澄みきった明け方。東の空が桔梗の花びらのようにあやしい底光りをはじめる頃、丘の上の一本のいちょうの木に実った千人の子どもたちは、いっせいに目を覚まします。きょうこそが、旅立ちの日——。

    「ぼくなんか落ちるとちゅうで目がまわらないだろうか」と不安を口にする子、水筒にはっか水を用意して仲間に分けようとする子、「あたしどんなとこへいくのかしら」「どこへもいきたくないわね」「おっかさんとこにいたいわ」と別れを悲しむ女の子たち。木のいちばん高いところにいる男の子たちは「ぼくはきっと黄金色のお星さまになるんだよ」と空への憧れを語り合い、別の子は魔法の網を持って杏の王様のお城のおひめ様を救う冒険を夢見ています。くつが小さいと困る子、おっかさんにもらった新しい外套が見つからなくて泣きそうになる子——千人の子どもたちそれぞれに、不安も希望も夢も、そして母への思いもあります。

    おかあさんであるいちょうの木は、あまりの悲しみに扇形の黄金の髪の毛を昨日までにみんな落としてしまいました。そしてきょう、まるで死んだようになってじっと立っています。

    星がすっかり消え、東の空が白く燃えるようにゆれはじめたとき——光の束が黄金の矢のように一度にとんできました。子どもらはまるでとびあがるくらいかがやきます。北から氷のようにつめたい透きとおった風がゴーッと吹いてきます。「さよなら、おっかさん」「さよなら、おっかさん」——。

    この物語には、別れの朝の空気がすみずみまで満ちています。冷たく澄んだ明け方の空、霜のかけらが風に流される音、桔梗色から白光へと移りゆく東の空——そうした繊細な自然描写の中で、いちょうの実である子どもたち一人ひとりの声が丁寧に拾い上げられていきます。不安と希望、悲しみと期待、現実的な心配事と無邪気な空想が、千通りの小さな声となって語られます。子どもたちがそれぞれに準備をし、互いに励まし合い、別れを惜しみ、それでも旅立たなければならない——その一つひとつの会話に耳を傾けていると、あたかも自分もその木の下に立って、子どもたちの旅立ちを見守っているような感覚に包まれます。

    母と子の別れ、成長と旅立ち、そして自然の営み。冷たい北風とあたたかな陽の光。悲しみの中にある祝福。この物語が描き出す、ある秋の朝の光景を、朗読でじっくりとお聴きください。


    #植物


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    11 分
  • 化物丁場
    2025/11/02

    📖『化物丁場』朗読 – 軽便鉄道の車窓から語られる、何度も崩れる工事現場の不思議🚂🏔️

    雨が五六日続いた後の朝、やっとあがった空には、まだ方角の決まらない雲がふらふらと飛び、山脈も異様に近く見えています。黄金の日光が青い木や稲を照らしてはいますが、なんだかまだほんとうに晴れたという気がしない、そんな不安定な空気の中、「私」は西の仙人鉱山への用事のため、黒沢尻で軽便鉄道に乗り換えます。

    車室の中では、乗客たちが昨日までの雨と洪水の噂で持ちきりです。そんな中、「私」のうしろの席で、突然太い強い声が響きます。「雫石、橋場間、まるで滅茶苦茶だ。レールが四間も突き出されてゐる」——線路工夫の半纒を着た男が、誰に言うとなく大きな声でそう告げたのです。ああ、あの化物丁場だな。「私」は思わず振り向きます。

    化物丁場——それは、鉄道敷設の際に何度も何度も理由もなく崩れ続けた、不思議な工事現場のことでした。雨が降ると崩れる。けれども、水のせいでもないらしい。全くをかしい、と工夫は言います。黒くしめった土の上に砂利を盛ったこと、それでもそれだけでは説明のつかない、あの場所の不気味さ。

    工夫が語り始めたのは、十一月の凍てつく空気の中での体験でした。百人からの人夫で何日もかかって積み直した砂利が、すっかり晴れた夜、明け方近くに突然崩れ落ちる。アセチレンランプの青白い光の中、みんなが見ている前で、まだ石がコロコロと崩れ続ける様子。技師は目を真っ赤にして怒鳴り散らし、工夫たちは、一度別段の訳もなく崩れたのなら、いずれまた格別の訳もなしに崩れるかもしれないと思いながら、それでも言いつけられた通りに働き続けます。

    乱杭を打ち込み、たき火を焚いて番をする夜もありました。五日の月の下、遠くで川がざあと流れる音だけが響く中で過ごす時間。そして十二月に入り、雪が降り、また崩れ——何度も何度も繰り返される崩壊と積み直し。今年はもうだめなんだ、来年神官でも呼んで、よくお祭をしてから、コンクリーで底からやり直せ、と工夫たちは言い合いながらも、雪の中で作業を続けていったのです。

    走る汽車の車窓から見える青い稲田、白く光る線路、栗駒山の青い姿。現実の風景の中で語られる、何度も崩れる工事現場の話。それは何を意味しているのか——技術と自然、人間の営みと土地の記憶、そして説明のつかない出来事。雨上がりの不安定な空気の中、軽便鉄道は西へ西へと進んでいきます。

    この物語は、軽便鉄道という日常的な空間の中で、偶然乗り合わせた線路工夫の語りを通して展開されます。幻想的な世界ではなく、現実の鉄道工事という具体的な労働の場面を舞台にしながら、そこに不可解な出来事が幾重にも重なっていく構成。雨上がりの不安定な天候、行き交う雲、近く見える山脈といった自然描写が、語られる出来事の不思議さを一層際立たせています。何度崩れても積み直し続ける工夫たちの姿と、それでもなお崩れ続ける場所——語り手の淡々とした口調の中に滲む、説明のつかないものへの畏れ。軽便鉄道の車窓から見える東北の風景とともに、この不思議な体験談を朗読でお楽しみください。


    #鉄道 #月

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    22 分