エピソード

  • どんぐりと山猫
    2025/04/27

    🎙️ 宮沢賢治「どんぐりと山猫」朗読 – 一通の奇妙なはがきから始まる不思議な冒険の予兆。

    ある土曜日の夕方、一郎の家に届いた一通の不思議なはがき。
    送り主は山猫。内容はただひとつ、「あした、めんどなさいばんしますから、おいでんなさい」。字は乱雑で、墨が手につくほどの雑さ。しかし、一郎はそのはがきに心を奪われ、次の日を待ちきれずに興奮を隠せませんでした。まるでそれが何か大きな冒険の始まりを告げるかのように、胸が高鳴ります。

    翌朝、一郎が目を覚ますと、すっかり明るくなっていました。外の山々はまるで昨日新たに作られたかのようにうるおい、すっきりとした風が吹き抜けていました。急いで食事を済ませ、ひとり山へと向かう一郎。道中、彼は不安と興奮を感じながらも、次々と現れる木々や滝、動物たちに出会い、そのすべてに山猫の足跡を追って行きます。

    栗の木に、滝に、きのこに、リスに――どれもが一郎に「山猫は今、違う方へ行ったよ」と答えるのです。そのたびに一郎は疑問を抱きつつも、もっと深く、もっと遠くへ進んでいく決意を固めます。果たして、その先に待っているのは何か、彼の目に映るのはどんな景色なのか。興奮と共に物語は進み、山の奥へと一郎は足を踏み入れていきます。

    『どんぐりと山猫』は、宮沢賢治の中でも独特な世界観を持った物語で、ユーモアと幻想が絡み合っています。山猫という不思議な存在を通して、子どもたちと自然の深い結びつき、または大人たちが忘れてしまった感覚を呼び覚ますような作品です。賢治が描く自然は、ただの背景ではなく、物語の一部として生き生きと動き、物語をより深く、豊かなものにしています。

    この朗読では、賢治の言葉のリズムを大切にしながら、静かな冒険へと誘います。どこか懐かしく、でも新鮮なこの物語は、子どもから大人まで、誰もが楽しめる内容です。特に自然の中で過ごす時間や、何気ない日常の中にある小さな冒険を感じることができる一篇となっています。

    それでは、冒険のはじまりを、どうぞお楽しみください。

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    26 分
  • 『注文の多い料理店』序
    2025/04/20

    🎙️ 宮沢賢治「『注文の多い料理店』序」朗読 – 透明な風と桃色の朝をめぐる、ことばのはじまり。

    『注文の多い料理店』――宮沢賢治が生前に世に送り出した、最初で最後の童話集。
    その冒頭に置かれた「序」は、作品全体を貫く感受性と、作者のまなざしを静かに伝える短い文章です。
    このエピソードでは、その「序」の全文を、丁寧な朗読でお届けします。

    この「序」は、いわゆる前書きや解説のような性質のものではなく、
    読み手に静かに語りかけるような、親密な雰囲気をまとっています。
    氷砂糖、すきとおった風、桃いろの朝、森の中のびろうど――
    それらは、どこか現実と夢のあいだにあるような風景として描かれ、
    物語が生まれた源のような感覚をにじませます。

    賢治は、この本のなかに「わたくしには、そのみわけがよくつきません」と正直に綴ります。
    ある物語は「あなたのためになる」かもしれず、あるものは「わけのわからないところもある」と。
    けれども、それでも「どうしてもこんなことがあるようでしかたない」という、
    切実な思いを、そのまま差し出すように書かれています。

    今回の朗読では、その素朴でやわらかな言葉の流れを大切にしながら、
    耳にすっとなじむ声でお届けします。
    ページをめくるのとはまた違うかたちで、
    「序」のことばのなかにある静かなひかりを感じていただけることでしょう。

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    4 分
  • 『注文の多い料理店』新刊案内
    2025/04/20

    🎙️ 宮沢賢治『注文の多い料理店』新刊案内 – “心象スケッチ”としての童話集、そのはじまりの言葉

    今回お届けするのは、宮沢賢治の童話集『注文の多い料理店』に寄せて、彼自身が執筆した“新刊案内”の朗読です。
    この文章は、作品の巻頭に添えられた序文とは異なり、まだ無名の一青年作家が自らの最初の一冊に託した文学的広告文
    出版当時の読者に宛てて、どんな世界がこの本に詰まっているのか、どんな思いでこの童話集を世に出すのか、静かに、しかし確かな熱をもって綴られた一篇です。

    冒頭、「イーハトヴは一つの地名である」と語り始めるこの文章は、単なる本の紹介文ではありません。
    それはまるで、読者を幻想と理想の間にある透明な国土へと招くような、文学的序詞(プレリュード)のようでもあります。
    アリスの鏡の国、テパーンタール砂漠、イヴン王国……地理学の地図では見つけられない場所の名を挙げながら、賢治は“イーハトヴ”という内なる宇宙の在処を語り出します。
    それは彼の心象にのみ存在する日本の一県——けれど、そこでは人は氷雲の上を飛び、蟻と語り、風と影と共に旅をすることさえできる。

    この案内文が語るのは、童話という形式を借りながら、詩でもあり哲学でもあり、そしてひとつの信仰でもあるような文学です。
    「これは正しいものの種子を有し、美しい発芽を待つもの」と賢治は述べ、けっして既成の宗教や倫理の残りかすではないと断言します。
    それは決してユートピアを語る理想主義でもなければ、子どもを眠らせるだけの空想でもない。
    再三にわたり“けっして〜ではない”という否定を繰り返す文体のうちに、賢治がいかにこの本に、自分のすべてを賭けていたかが、じんわりと伝わってきます。

    彼がこの童話集に込めたのは、「心象スケッチ」という独自の方法で捉えられた人生の断片です。
    それは馬鹿げていても、難解であっても、必ず“万人の共通”に届くと信じている。
    そしてそれこそが、童話という形式が可能にする、最も誠実な文学のかたちなのかもしれません。

    たった一冊の、たった一度の刊行に添えられたこの案内文は、100年の時を経てもなお、読む者、聴く者の胸の奥に静かに届く力を持っています。
    それはもしかすると、今の私たちがかつてどこかに置き忘れてきた感受性の、微かな呼び声なのかもしれません。

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    9 分
  • オツベルと象
    2025/04/13

    📖『オツベルと象』朗読 – 欲とやさしさが交差する、力強くも哀しい物語🐘🏭

    静かに語られる物語の世界へようこそ。
    今回お届けするのは、宮沢賢治の代表的な寓話のひとつ、『オツベルと象』。

    稲扱き器械が「のんのんのんのん」とけたたましく音を立てる薄暗い仕事場。
    16人の百姓たちが顔を真っ赤にしながら機械を回し、稲を処理し、藁を投げ、
    空気はちりと埃で霞み、まるで沙漠のけむりの中にいるかのようです。
    その中を、黒い背広に琥珀色のパイプをくわえた男——オツベルが、
    手を背に組み、悠々と歩き回ります。

    彼は町一番の大地主であり、力を持ち、金を持ち、人を支配することに慣れきった男。
    昼には大きなビフテキやオムレツを腹に収めるその余裕の裏で、
    周囲の人々はただただ沈黙のうちに、彼の支配に従っています。

    そんなある日、突然現れたのが、一頭の白象。
    それはペンキを塗ったような見せかけではなく、生まれながらの本物の白象。
    どこから来たのかもわからず、ふらりと姿を見せたその象に、
    人々はぎょっとしながらも、関わることを恐れ、目を背けます。

    しかしオツベルは違いました。
    ちらりと鋭く象を見ては、何気ないふりで歩き続け、やがて声をかけます。

    「ずうっとこっちに居たらどうだい?」

    鶯のように澄んだ声で「居てもいいよ」と答える象。
    その瞬間から、彼はオツベルの“財産”となります。

    そこから始まるのは、優しさの仮面をかぶった支配と搾取の物語。
    まっ白な象の背に積み上げられていく重荷、
    言葉少なに耐え続ける象の姿は、ただの寓話にとどまらず、
    人が持つ欲と、誰かのやさしさにつけ込んでしまう弱さを、鋭く浮かび上がらせます。

    宮沢賢治の筆致は、どこまでも明快で、力強く、そしてどこか残酷です。
    韻を踏んだようなリズムのある文章の中に、
    私たちが見過ごしてしまいがちな「不正」や「孤独」や「誤った優越感」が、
    鮮やかに、そしてひりひりと描かれています。

    この物語は、ただの勧善懲悪でも、ただの風刺でもありません。
    無垢なものが搾取される現実と、それでもなお残る希望の兆しが、
    読む者の胸に強く、深く、余韻を残していきます。

    オツベルと白象。
    あなたはこの物語のどこに心を動かされるでしょうか。
    朗読を通して、賢治が残したこの静かで切実な寓話に、そっと耳を傾けてみませんか?

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    26 分
  • 猫の事務所
    2025/04/06

    📖『猫の事務所』朗読 – 小さな社会に映し出される、静かなまなざしとやさしい問いかけ🐾📎

    静かに語られる物語の世界へようこそ。
    今回お届けするのは、宮沢賢治の『猫の事務所』。

    軽便鉄道の停車場のそばにひっそりと建つ、猫の第六事務所。
    そこでは、猫たちが自分たちの歴史や地理を調べ、記録する仕事に真面目に取り組んでいます。
    この事務所で働く書記は、いつも決まって四匹だけ。黒い繻子の制服に身を包み、選ばれた者として誇りを持って働いています。

    一番書記の白猫、二番の虎猫、三番の三毛猫、そして四番書記の“かま猫”。
    かま猫とは、生まれつきの種ではなく、かまどの中に入って眠る癖から体中が煤だらけになってしまった猫のこと。
    その見た目のせいで、ふだんは嫌われがちな存在ですが、事務所の黒猫の事務長のもとでは、その能力を認められ、選ばれた四匹のうちの一匹として働いています。

    かま猫はとても真面目で、誠実に仕事をこなします。
    訪問者の質問にも、厚い帳面から素早く情報を引き出し、丁寧に答えるその姿に、時に周囲も感心するほど。
    けれども、その仕事ぶりとは裏腹に、どこか彼を受け入れない空気が、事務所の中には静かに漂っています。

    「夏猫は全然旅行に適せず」——何気ない資料の一節が読まれたとき、
    ふとした沈黙とともに、皆の視線が一斉にかま猫に向けられる。
    言葉にはされないけれど、確かに感じられる隔たり。
    その無言の圧力は、仕事の正確さや努力だけでは拭いきれない、人と人とのあいだに生まれる“壁”のようなものです。

    物語が進むにつれ、かま猫がどのような扱いを受け、何を思いながら日々を過ごしているのかが、
    言葉の端々や場面の静けさの中から、にじみ出るように描かれていきます。

    宮沢賢治は、この小さな猫の事務所を通して、
    社会の中にある目に見えない排除や偏見、
    そして、その中で懸命に自分の場所を守ろうとする姿を、やさしく、けれど鋭く描き出します。

    かわいらしい猫たちが織りなす、ユーモラスで愛らしい表面の奥に、
    私たち自身の暮らす社会と重なる光と影が、確かに存在しています。

    この静かで繊細な物語を、朗読でゆっくりと味わってみませんか?
    きっとあなたの心の中にも、小さな声がそっと響くはずです。

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    28 分
  • 月夜のけだもの
    2025/03/30

    📖『月夜のけだもの』朗読 – 月光とけむりに包まれた、やさしく幻想的な一夜🌕🐾

    静かに語られる物語の世界へようこそ。
    今回お届けするのは、宮沢賢治の『月夜のけだもの』。

    十日の月が西の煉瓦塀に沈むまで、あと一時間。
    青白い月の光が檻を照らすなか、獣たちはそれぞれの眠りについています。
    夜通しうろついていた狐も、今は奇妙な顔で眠り、あたりは静けさに包まれています。

    そんななか、語り手は獅子の檻の前のベンチに腰を下ろします。
    すると、月の光とけむりが溶け合うようにあたりの空気が変わり、
    獅子は黒いフロックコートに身を包み、やさしく威厳ある姿で立ち上がります。
    奥方からステッキを受け取った彼は、夜の見回りに出かけていきます。

    やがて出会う白熊とのやりとりは、どこかとぼけた味わいがあり、
    白熊が探しているという“象”の話を通して、けだものたちの世界に広がる
    知恵や信仰、憧れやすれ違いといったものが、ほのかに浮かび上がってきます。

    獅子は偉そうでありながら、どこか親しみ深く、話し相手を頭ごなしに否定することはありません。
    そのやりとりはまるで、誰かの夢の中で交わされた対話のように、静かであたたかく響きます。

    宮沢賢治の筆が描く、静寂と月光に満ちた幻想の一夜。
    やわらかな風刺と優しさに包まれたこの物語を、朗読でじっくり味わってみませんか?

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    23 分
  • 学者アラムハラドの見た着物
    2025/03/23

    📖『学者アラムハラドの見た着物』朗読 – 知と真理を求める旅📜

    静かに語られる物語の世界へようこそ。
    今回お届けするのは、宮沢賢治の『学者アラムハラドの見た着物』。

    学者アラムハラドは、ただ知識を集めるだけの学者ではありませんでした。
    彼が追い求めていたのは、まことの道、真理そのもの。
    人が道を求めることは、鳥が飛ばずにいられないのと同じ——
    彼はそう語り、教え子たちにその大切さを説きます。

    人生という険しい道を進む上で、決して忘れてはならない二つのこと。
    それは、人が本能的に求める「善」と「道」。
    彼は教え子たちに語りかけながら、まるで自身の信念を確かめるように、その言葉を紡いでいきます。

    しかし、この物語には結末がありません。
    宮沢賢治の未完の作品であるため、物語の後半は原稿が存在しません。
    それでも、その言葉のひとつひとつには、彼が伝えたかった大切な思いが込められているのです。

    知と真理を求める旅の途中にあるこの物語を、朗読を通してじっくり味わってみませんか?

    📌 ※本作は未完の作品のため、物語の後半は原稿が現存せず、朗読も途中までとなっています。

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    27 分
  • よく利く薬とえらい薬
    2025/03/16

    📖『よく利く薬とえらい薬』朗読 – 宮沢賢治が描く、森に響く不思議な言葉🌿🐦

    静かに語られる物語の世界へようこそ。
    今回お届けするのは、宮沢賢治の『よく利く薬とえらい薬』。

    ある森の中、風がそよぎ、木々の間を鳥たちの声が飛び交います。
    けれどもし、その声がただのさえずりではなく、はっきりと意味を持った言葉として聞こえたなら——?
    森に生きる鳥たちは、何を語り、どんな思いを抱えているのでしょうか。

    ここに登場するのは、つぐみ、かけす、ふくろう、よしきりたち。
    つぐみは何かを楽しげにさえずり、かけすは鋭い声で森の出来事を語るかもしれません。
    ふくろうは夜の静寂の中で、誰にも聞こえないようにひっそりと話すのでしょうか?
    よしきりの声は、風に乗って遠くまで届いているかもしれません。

    この物語の世界では、彼らの言葉がくっきりと響き渡り、森の中に隠されたもうひとつの世界が広がります。
    彼らの会話に耳を澄ませることで、森はこれまでとは違う表情を見せ、
    木々のざわめきや風の流れまでが、まるで言葉を持っているかのように感じられるでしょう。

    宮沢賢治ならではの、生き生きとした自然の描写と、ユーモアに満ちた語り口。
    まるで自分も森の中に佇み、鳥たちの言葉にじっと耳を傾けているような感覚に包まれる、不思議な物語です。

    森に響く声にそっと耳を澄ませながら、この世界を朗読を通してじっくり味わってみませんか?

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    17 分