『渡部龍朗の宮沢賢治朗読集』のカバーアート

渡部龍朗の宮沢賢治朗読集

渡部龍朗の宮沢賢治朗読集

著者: 渡部製作所
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このコンテンツについて

Audibleで数々の文学作品を朗読してきたナレーター 渡部龍朗(わたなべたつお) が、宮沢賢治作品の朗読全集の完成を目指し、一編ずつ心を込めてお届けするポッドキャスト。 ▼ 朗読音声とテキストがリアルタイムで同期する新体験オーディオブックアプリ「渡部龍朗の宮沢賢治朗読集」iOS版 / Android版 公開中 ▼ 【iOS】https://apps.apple.com/ja/app/id6746703721 【Android】https://play.google.com/store/apps/details?id=info.watasei.tatsuonomiyazawakenjiroudokushu 幻想的で美しい宮沢賢治の言葉を、耳で楽しむひとときを。 物語の息遣いを感じながら、声に乗せて広がる世界をお楽しみください。渡部製作所 アート 文学史・文学批評
エピソード
  • ひのきとひなげし
    2025/07/27

    📖『ひのきとひなげし』朗読 – 風に舞う花たちと夕暮れの庭で繰り広げられる不思議な物語🌺🌲

    静謐な朗読の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『ひのきとひなげし』。

    風の強い夕暮れ時、まっ赤に燃え上がったひなげしの花たちが、風にぐらぐらと揺れながら息もつけないような様子で立っています。その背後では、同じく風に髪も体も揉まれながら、若いひのきが立っていました。ひのきは風に揺れるひなげしたちを見て「おまえたちはみんなまっ赤な帆船でね、いまが嵐のところなんだ」と声をかけます。しかしひなげしたちは「いやあだ、あたしら、そんな帆船やなんかじゃないわ。せだけ高くてばかあなひのき」と反発するのでした。

    やがて銅づくりの太陽が瑠璃色の山に沈み、風がいっそう激しくなります。風が少し静まった頃、いちばん小さいひなげしがひとりでつぶやきます。「ああつまらないつまらない、もう一生合唱手だわ。いちど女王にしてくれたら、あしたは死んでもいいんだけど」。ひなげしたちは皆、美しい「テクラ」という名の花を羨ましがり、自分たちも「スター」になりたいと憧れを抱いているのでした。

    そんな中、向こうの葵の花壇から悪魔が現れます。最初は美容術師として、次は医者として姿を変え、ひなげしたちに美しくなる薬を提供すると申し出るのです。その代償として求めるのは、ひなげしの頭にできる「亜片」でした。お金のないひなげしたちは皆、その取引に心を動かされることになります。

    この物語は、「スター」になりたいと願うひなげしたちの心の動きを、繊細な心理描写で描いています。ひなげしたちの会話は生き生きとしており、それぞれの個性や想いが丁寧に表現されています。「スター」への憧れは、現代にも通じる普遍的な願望でありながら、花という存在を通して語られることで、美しさの本質を静かに浮かび上がらせます。

    風の音、雲の流れ、夕暮れから夜への時間の移ろい——自然の営みと生命の営みが重なり合う中で、ひのきという存在は静かな知恵と愛情深い眼差しでひなげしたちを見守ります。悪魔の甘い誘惑と、それに対するひのきの警告は、欲望と理性、表面的な美しさと本当の価値について、聞き手にも静かな問いを投げかけます。

    作品全体に流れる詩的なリズムと、方言を交えた親しみやすい会話のバランスも絶妙です。色彩豊かな情景描写は、まるで一枚の絵画を見ているような美しさで、朗読を通してその世界に深く入り込むことができます。夕暮れの庭という限られた空間の中で展開される小さな宇宙が、聞く人の心に静かな余韻を残すことでしょう。朗読でゆっくりとその世界をお楽しみください。


    #毒 #衝動

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    19 分
  • よだかの星
    2025/07/20

    📖『よだかの星』朗読 – 醜い鳥が見つめた夜空の向こう側⭐🌙

    静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『よだかの星』。

    よだかは実に醜い鳥でした。顔はところどころ味噌をつけたようにまだらで、くちばしは平たく耳まで裂けています。足はよぼよぼで、一間とも歩けません。他の鳥たちは、よだかの顔を見ただけでもいやになってしまうほどでした。美しくないひばりでさえ、よだかと出会うと、いかにもいやそうに首をそっぽへ向けてしまいます。小さなおしゃべりの鳥たちは、いつでもよだかの真正面から悪口を言いました。「鳥の仲間の面汚しだよ」「あの口の大きいこと、きっとかえるの親類なんだよ」と。

    しかし、よだかは本当は鷹の兄弟でも親類でもありませんでした。かえって、あの美しいかわせみや蜂すずめの兄さんだったのです。蜂すずめは花の蜜を食べ、かわせみはお魚を食べ、よだかは羽虫を取って食べていました。よだかには鋭い爪も鋭いくちばしもなく、どんなに弱い鳥でも、よだかを怖がる理由はなかったのです。

    それなのに「たか」という名がついているのは、よだかの羽が無暗に強くて風を切って翔けるときは鷹のように見えること、そして鳴き声が鋭くてどこか鷹に似ているためでした。もちろん、本物の鷹はこれを非常に気にかけて嫌がっていました。よだかの顔を見ると肩をいからせて、「早く名前を改めろ」と言うのでした。

    ある夕方、とうとう鷹がよだかの家へやって来ました。鷹は「市蔵」という名前に変えて改名の披露をしろと迫り、「明後日の朝までにそうしなかったら、つかみ殺すぞ」と脅して帰っていきました。

    よだかは目をつぶって考えました。一体自分はなぜこうみんなに嫌われるのだろう。今まで何も悪いことをしたことがないのに──。

    あたりがうす暗くなると、よだかは巣から飛び出しました。雲とすれすれになって羽虫を捕らえていましたが、甲虫が喉でもがくとき、よだかは何だか背中がぞっとしたように感じました。そしてついに大声をあげて泣き出してしまいます。

    「ああ、かぶとむしや、たくさんの羽虫が、毎晩よだかに殺される。そしてそのよだかが今度は鷹に殺される。それがこんなにつらいのだ。ああ、つらい、つらい。よだかはもう虫を食べないで飢えて死のう」

    山焼けの火が水のように流れて広がる夜、よだかは弟の川せみの所へ飛んで行き、「今度遠い所へ行く」と別れを告げます。そして夜明けになると、霧が晴れたお日様に向かって飛び、「どうぞ私をあなたの所へ連れて行って下さい。焼けて死んでも構いません」と願いました。しかしお日様は「お前は夜の鳥だから、今夜空を飛んで、星にそう頼んでごらん」と答えます。

    夜になると、よだかは美しいオリオンの星、南の大犬座、北の大熊星、天の川の向こう岸の鷲の星へと次々に飛んで行き、同じように頼みます。しかし、どの星も相手にしてくれません。よだかは力を落として地に落ちていきますが、地面に足がつく寸前、俄かにのろしのように空へ飛び上がりました。そして高く高く叫びます──その声はまるで鷹でした。

    この物語は、外見の醜さゆえに世界から疎外された一羽の鳥の孤独と苦悩を描いています。他者からの拒絶、生きることそのものへの罪悪感、そして最後に選択する道──よだかが辿る軌跡は、現実と幻想が入り混じる夜の世界で静かに展開されます。

    美醜による差別、名前をめぐる争い、食べることの罪──これらの要素が夜空の下で静かに語られていきます。夜空に輝く星々を見上げるとき、そこにはどのような光が宿っているのでしょうか。

    月光に包まれた夜の世界で繰り広げられる、一羽の鳥の切ない魂の軌跡。醜いと言われた存在が見つめた夜空の向こう側には、何が待っているのか。詩的で美しい言葉の調べに乗せて語られるこの不思議な物語を、静かな朗読でじっくりとお楽しみください。


    #動物が主人公 #衝動 #星座 #いじめ

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    23 分
  • やまなし
    2025/07/13

    📖『やまなし』朗読 – 水底に響く幻想的な蟹の兄弟の物語🌊🦀

    静寂に包まれた水中世界へと誘う朗読をお届けします。今回の作品は、宮沢賢治の『やまなし』。小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈として語られる、時の流れと生命の営みを描いた幻想譚です。

    物語は五月、青じろい水の底で始まります。二匹の蟹の子供たちが、水銀のように光る泡を吐きながら不思議な会話を交わしています。「クラムボンはわらったよ」「クラムボンはかぷかぷわらったよ」——このクラムボンとは一体何なのでしょうか。兄弟蟹の愛らしいやりとりの中に、謎めいた存在の影がちらつきます。

    水の天井を流れる暗い泡、鋼のように見える青い空間、そして突然現れては消える銀色の魚。この静謐な水中世界に、ある日突然の出来事が起こります。白い泡が立ち、青びかりのぎらぎらする鉄砲弾のようなものが飛び込んできたのです。その青いもののさきはコンパスのように黒く尖り、魚の白い腹がぎらっと光って——。父さん蟹は「それは鳥だよ、かわせみと云うんだ」と子供たちを安心させ、「おれたちはかまわないんだから」と優しく声をかけます。

    やがて季節は移ろい、十二月。蟹の子供たちはよほど大きくなり、底の景色もすっかり変わっています。白い柔らかな円石、小さな錐の形の水晶の粒、金雲母のかけら——新しい世界の装いの中で、ラムネの瓶の月光が冷たい水の底まで透き通っています。天井では波が青じろい火を燃したり消したりし、あたりはしんとして、遠くから波の音だけがひびいてきます。

    月が明るく水がきれいなこの夜、眠らずに外に出た蟹の兄弟は、どちらの泡が大きいかで言い争いをしています。そんな微笑ましい兄弟げんかの最中、またしても天井から大きな黒い円いものが落ちてきました。今度はキラキラと黄金のぶちが光っています。「かわせみだ」と身をすくめる子供たちでしたが、お父さんの蟹は遠めがねのような両方の眼をあらん限り延ばして確かめてから言いました。「そうじゃない、あれはやまなしだ」——。

    水の中に漂ういい匂い、月光の虹がもかもか集まる幻想的な光景、そして家族三匹で追いかけるやまなしの行方。横歩きする蟹たちと底の黒い三つの影法師が合わせて六つ踊るようにして進む光景が描かれています。五月の緊張から十二月の平穏へ、恐怖から安らぎへと移りゆく時の流れの中で、小さな生命たちの日常が温かく描かれています。

    この作品は、水という透明な世界を舞台に、そこに住む小さな生き物たちの目線から語られます。クラムボンという謎めいた存在、突然の闖入者たち、季節の移ろいとともに変化する水底の風景——現実と幻想が溶け合う中で、生命の営みと自然の循環が静かに歌われています。蟹の兄弟の無邪気な会話、父さん蟹の優しい導き、そして水面を通して感じられる上の世界の気配が、独特の詩的な世界を織りなしています。

    青い幻燈のように美しく、透明な水のように清らかな物語の世界。時にユーモラスで、時に神秘的な水底の一日と一夜を、朗読でゆっくりとご堪能ください。


    #動物が主人公

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    13 分
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