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形容のできない奇妙な声が突然聞こえてきた。甘川家の座敷中が静まりかえる。 ここは、十畳と十二畳続きの広間で紋付袴の大勢の人々が酒を飲んでいた。そこには、新郎の当主であり、青年医師の甘川澄夫に新婦の初枝。
著者: 夢野 久作
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難船小僧(S・O・S・BOY)
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「ギャア――。ウワアッ。助けて助けて……カンニンして下サアイ。僕はこの船を降りますから……どうぞどうぞ……助けてエ助けてエッ……」
「アハハハ。どうもしねえだよ。仕事を手伝いせえすれあ、ええんだ」
「許して……許して下さあい。僕……僕は……お母さんが……姉さんが家(うち)に居るんですから……」
「ウハハハハ……云う事を聴かねえとコレだぞ」
「致します致します。何でも致します。……すぐに……すぐに船から下して下さい。殺さないで下さい」
「知ってやがったか。ワハハハハハハハ」
昭和二年頃の十月の末だったっけ……
足音高くブリッジに登って行った俺は、船長(おやじ)の背後でワザと足音高く立停まった。
「おはよう……」と声をかけたがは見向きもしない。何しろ船長仲間でも指折の変人だからね。何か一心に考えていたらしい。俺は右手に提げた黄色い、四角い紙包を船長の鼻の先にブラ下げてキリキリと回転さした。
「御註文のチベット紅茶です。やッと探し出したんです」
船長(おやじ)はやっとびっくりしたらしく首を縮めた。無言のまま六尺豊かの長身をニューとこっちへ向けて紅茶を受取った。
「ウウ……機関長か……アリガト……」とプッスリ云った。コンナ時にニンガリともしないのがこの船長の特徴な
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...
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楽器というものの音が、どんなに深く人の心を捉える
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あらすじ・解説
<内容紹介>
私は「完全な犯罪」なぞいうものは空想の一種としか考えていなかった。
正月の末、いつも通り十二時前後に社を出た新聞記者の私は、寒風の中に立ち止まって左右を見まわした。どこかで一杯引っかけてから、霞ヶ関の暗い坂を登って、二時きっかりに下宿に戻る習慣がついていた。
今夜はどっちへ曲がろうと考えていると、一台の泥だらけのフォードが近づいてきた。帽子を深くかぶり、黒いマスクをかけた若い運転手。私が手を振っても自動車は動かなかった。
今度は、運転手が窓に顔を近づけて、私にだけ聞こえるように「無賃ただでもいいんですが」といった。笑っている目つきを見て面を食らった私は、記事のネタになりそうだと車に乗り込んだ。
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<夢野久作(ゆめの・きゅうさく)>
日本の小説家、SF作家、探偵小説家、幻想文学作家。
1889年(明治22年)1月4日 - 1936年(昭和11年)3月11日。
他の筆名に海若藍平、香倶土三鳥など。現在では、夢久、夢Qなどと呼ばれることもある。福岡県福岡市出身。日本探偵小説三大奇書の一つに数えられる畢生の奇書『ドグラ・マグラ』をはじめ、怪奇色と幻想性の色濃い作風で名高い。またホラー的な作品もある。