『翔べ!ほっとエイジ〜人生100年時代の歩き方トーク』のカバーアート

翔べ!ほっとエイジ〜人生100年時代の歩き方トーク

翔べ!ほっとエイジ〜人生100年時代の歩き方トーク

著者: 相川浩之(ジャーナリスト)
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このコンテンツについて

人生100年時代の歩き方を考えるトーク番組 • 時代の変化が激しい。コロナ禍が、社会のデジタル化を加速。2025年には団塊の世代が75歳以上となり、本格的な超高齢社会が到来する。地球温暖化や貧困、戦争など、グローバルに解決しなければならない問題にも直面している。 • ところが本来、知見を伝えなければならないシニア世代と、若者世代の間に深刻なコミュケーションギャップがある。時代が変わっても過去の経験や知識が無駄になるわけではないが、シニア世代も時代の変化についていけず、自信を失っている。 • 18歳で成人になったばかりの若者から、学び直したい大人まで、混迷の時代に知っておきたい知識、情報をお伝えする。相川浩之(ジャーナリスト) 社会科学
エピソード
  • 第38回は、社会学者の上野千鶴子さんに聞く(下)老いを受け入れる勇気をーーボーヴォワール「老い」を読み解く
    2025/08/16
     今回のゲストは、社会学者の上野千鶴子(うえの・ちづこ)さん.。 上野千鶴子さんが新著『アンチ・アンチエイジングの思想――ボーヴォワール「老い」を読む』で投げかけているのは、現代社会の根深い「老い」を嫌悪する価値観への根本的な問いかけだ。フリーアナウンサーの町亞聖とジャーナリストの相川浩之との対談で明らかになったのは、私たちが無意識のうちに内面化している「生産性のない人間には価値がない」という思想の危険性だった。 上野さんは長年にわたって女性問題を研究してきたが、現在は高齢者問題に軸足を移している。しかし、これは研究分野の転換ではなく、自然な延長線上にある取り組みだと語る。女性として当事者研究を行ってきた上野さんが、今度は老いた女性として当事者の立場から研究を続けているのだ。 超高齢社会においては、誰もが必ず老いを迎える。老いるのが嫌なら早死にするしかないという現実の中で、上野さんは超高齢社会を「恵み」と表現する。なぜなら、障害者差別や女性差別とは異なり、高齢者差別は最終的に自分自身に跳ね返ってくる差別だからだ。男性が女性になる可能性はほとんどないし、健常者が障害者になる可能性は相対的に低いとしても、老いは長生きすれば誰もが確実に迎えざるを得ない。この避けることのできない現実が、私たちに真の平等と共生について考える機会を与えているのである。  上野さんが今回取り上げたシモーヌ・ド・ボーヴォワールの『老い』は、1970年に発表された古典的名著だが、その内容は現代においても驚くほど新鮮で痛烈だ。ボーヴォワールは博覧強記の人として知られ、古今東西の文献から老いに対する否定的な言説を容赦なく引用している。例えば、ツルゲーネフの「人生で最悪のこと。それは55歳以上であることだ」という言葉は、現代の多くの人々にとって身につまされる内容だろう。  この本を「いやな本」と上野さんが表現するのは、これでもかこれでもかと畳み掛けるように、過去から現在に至るまで老いがいかに軽蔑され、忌避されてきたかを明らかにするからだ。しかし、この徹底的な検証こそが、私たちが無意識のうちに抱いている老いへの偏見を浮き彫りにする。ボーヴォワールが「老いは文明のスキャンダルである」と述べたのは、人間の生き死にが生産性や効率で測られることの根本的な誤りを指摘したものだった。 現代社会では、アンチエイジング産業が巨大な市場を形成している。高額な化粧品やサプリメント、健康食品などが「若さの維持」を謳い文句に販売され、消費者は値段の高い商品から購入していく傾向があるという。しかし、上野さんはこうした現象を「はかない望みを託している」と批判的に捉える。年齢を隠したがったり、「若いですね」と言われて喜んだりする行為も、結局は老いることへの恐怖と拒絶の表れに他ならない。 上野千鶴子さんが「老い」を意識したのはいつか? 「私は早かったですよ。30代で自分の人生が時間もエネルギーも有限だと思いました。それまでドブに捨てるように無限だと思っていたんですが」。  「それで、私、今、後期高齢者ですので、ボディーのパーツが故障してきています。もう腰椎圧迫骨折もしましたし、変形性股関節症にもなりましたし、目ん玉も悪くなりましたし、乳がんにもなりました。だからパーツがいろいろ故障してきますね。でも抗えない過程なので、どんなに頑張っても。で、それでも生かしてもらえる。結構なことではありませんか」。 上野さんは「高齢になっていろんな老い、衰え方をした人たち、特に認知症になった人を、公衆の目からご家族が隠すことはやめてほしい」と言う。免疫学者の多田富雄さんは脳梗塞で後遺障害になった姿を公開の場に出てこられて見せたし、認知症の専門医の長谷川和夫さんご自身が認知症になって、やっぱりその姿を世間にさらして、ご家族もそれを認めたという。 高齢者問題を考える上で重要なのが、「自立」という概念の捉え方だ。上野さんは、高齢者と障害者では自立の定義が180度異なることを指摘する。...
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    54 分
  • 第37回は、社会学者の上野千鶴子さんに聞く(上)介護保険制度の危機を乗り越え「ケア社会」をつくる
    2025/08/16
     今回のゲストは、社会学者の上野千鶴子(うえの・ちづこ)さん.。 人生100年時代を迎えた日本社会において、介護保険制度の行方は全ての国民にとって切実な問題となっている。この制度の根幹を揺るがす改悪案に対し、市民レベルから声を上げたのが、社会学者の上野千鶴子さんと評論家の樋口恵子さん。2人が手を結ぶきっかけは、立ち話だった。2014年の介護保険改定で危険な改悪案が浮上した際、ふたりは「このまま放置すれば取り返しのつかないことになる」という危機感を共有。上野さんが理事長を務めるウィメンズアクションネットワークと樋口さん率いる高齢社会をよくする女性の会が核となり、介護関係者、利用者、家族を巻き込んだ介護保険改悪反対運動が始まった。 2020年1月14日、衆議院第一議員会館で開催された「介護保険の後退を絶対に許さない!1・14院内集会」には約300人の関係者が集結した。この集会を皮切りに、介護保険改悪阻止の運動は全国に広がりを見せ、2023年には「ケア社会をつくる会」として正式にネットワーク化された。 運動を進める過程で明らかになったのは、介護関係者間の横のつながりの希薄さだった。ケアマネジャー、リハビリ専門職、介護職員など、様々な専門職が分断されており、利用者の当事者団体も認知症の人と家族の会を除けば組織化が進んでいない現実があった。この状況を打破するため、職種を超えた緩やかな連携の構築が急務となった。 ケア社会をつくる会は、2024年の参議院選挙に向けて主要政党へのアンケート調査を実施した。その結果、立憲民主党、社民党、共産党、れいわ新選組などが介護保険制度に言及し、特に立憲民主党は「幸せな在宅ひとり死への支援」という上野氏の提唱する概念まで政策に盛り込んでいた。 しかし、これらの政党が選挙で得票を伸ばすことはできず、介護問題が有権者の投票行動に与える影響は限定的だった。一方で、国民民主党や参政党を支持する介護関係者もおり、介護現場の政治的志向の多様性も浮き彫りになった。 上野さんは、ジェンダー問題が近年の選挙で投票行動に影響を与え始めているように、介護問題も継続的な取り組みによって政治的な争点として認知される可能性があると分析している。アメリカには会員数3600万人を誇る全米退職者連盟という強力な高齢者利益団体が存在し、党派を超えて政治的影響力を行使している。日本でも同様の当事者組織の必要性が求められている。 記者会見や院内集会を重ねる中で、メディアの関心の低さも課題として浮上した。「読売新聞は一度も取材に来ず、産経新聞は最後に一度だけ参加した程度で、テレビ局の対応も消極的だった。記者の質問レベルからは、介護保険制度に対する理解不足も明らかになった」と上野さんは言う。 2024年の介護報酬改定では、運動体が想定していなかった訪問介護報酬の大幅削減が実施された。この改定により、全国で訪問介護事業所の倒産、休業、廃業が相次ぎ、介護現場は深刻な危機に直面している。 共産党系の「赤旗」の調査によると、全国の自治体で介護保険事業所が完全に消失した地域が100以上、事業所が1つしか残っていない地域が300程度に上るという衝撃的な実態が明らかになった。上野さんらはこの状況を「保険詐欺」と表現し、保険料を徴収しながらサービスを提供できない制度の矛盾を厳しく批判している。 現在の要介護高齢者の多くは昭和時代を生きてきた世代であり、特に女性は家族のためにケアを提供する役割を担ってきた。この世代は要介護状態になると自らの存在意義を見失い、家族に迷惑をかけないよう遠慮がちになる傾向がある。 しかし、戦後生まれの世代は権利意識が高く、自分のことは自分で決めたいという意識を持っている。また、独居高齢者の増加により、家族に依存しない生き方を選択する高齢者も増えている。年金制度の影響も大きく、厚生年金受給者の比率が高い世代は経済的自立度が高く、従来の高齢者像とは大きく異なる特徴を示している。 国民年金制度の設計時には、自営業者は死ぬまで働き続けるという前提...
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    39 分
  • 第36回は、東大名誉教授の樋口範雄さんに聞く(下)変化する社会と法制度のギャップ
    2025/07/26
     今回のゲストは、武蔵野大学法学部特任教授、東京大学名誉教授の樋口範雄(ひぐち・のりお)さん.。 2006年の富山県射水市民病院事件をきっかけに、終末期医療における人工呼吸器停止が全国的な問題となった。 同病院で数年間に7人の患者の人工呼吸器が外されたことが発覚し、医師が捜査対象となった。日本では終末期医療中止で医師が裁判になったのは2件のみで、最高裁は適法な要件を満たせば治療中止は可能と判断。厚生労働大臣が医師一人の判断を避けるためのガイドライン策定の必要性を表明。樋口さんも検討会に関与し、誰もが常識的に納得できるルール作りに参加した。 終末期医療のガイドラインは次の三本柱で構成される。① 医師一人では決めず、チームで終末期医療の判断を行うことを原則とした②本人の意思を最も重要視し、本人の意思が不明な場合は家族等の意思で推定することを認めた③最期まで苦しまないよう緩和ケアを充実させることを国の責務として明記。 2018年に内容を充実させ、終末期に至るまでの時期についてもガイドラインを拡張。アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の概念を導入し、事前の医療・介護計画の重要性を強調した。 ACPは医療・介護分野に限定されているが、人生にはより幅広い準備が必要であることを指摘。 東京大学高齢社会総合研究機構が中心となり、ALPアドバイザー制度の検討を開始。単身高齢者の増加に対応し、人生全般にわたる相談ができる仕組みの構築を目指している。 本人の意思を尊重する原則はあるものの、日本では家族の意見も無視できない文化的背景がある。 法律上は「家族等」となっているが、実際の運用では血縁関係のある家族が重視される傾向がある。  樋口さんの入院経験では、まずキーパーソンを指定することが求められた。 キーパーソンは実質的に医療代理人の役割を果たすが、家族でなくても問題ないはずである。成年後見人は医療代理人にはなれないという制度上の矛盾が存在。親友や同性パートナー、内縁関係者など、家族以外でも本人をよく知る人がいる。彼らにも本人の意思を聞くことは構わないと樋口さんは考える。 アメリカでは医療代理人制度があり、家族でなくても代理人になることが可能、  樋口さんは銀行口座整理の際に、本人でなければ手続きできない不便さを感じた。 高齢者にとって身体的負担が大きい各種手続きで本人の出頭が求められる現状は改善し、代理人を認めてほしいという。 民法には代理制度の規定があるが、実際には誰も信用しない状況。それならば、イギリスやアメリカにある持続的代理権法(元気な時も判断能力を失った時も継続して機能する代理制度)のような、簡単に代理人を選べる制度が必要と樋口さんは言う。 ケアマネジャーが本来業務以外のアンペイドワーク、シャドウワークを多数依頼される現状への対策についても聞いた。アンペイドワーク、シャドウワークとは、 マイナンバーカード手続き、公共料金振込、買い物、救急車同乗などで、特に単身高齢者から、多岐にわたる依頼がケアマネジャーにある。単身高齢者にとってケアマネジャーが唯一の頼りとなっている存在だからだ。ケアマネの業務拡大で対応するか代理制度への橋渡しかで議論が分かれている。樋口さんは、 記録の透明化と適切な有償化により、必要なサービスを提供できる仕組みづくりが重要と説く。  民間で行われている身元保証サービス(高齢者等終身サポートとも言う)についても聞いた。 入院や施設入所時の身元保証要求は本来必要ないが、慣行として続いている。身元保証法は入院・施設入所のために作られた法律ではないにも関わらず流用されている。高齢者等終身サポート事業者による高額なサービス(入会金100万円超のところが多い)が存在する。法律も所管官庁もない状態でガイドラインのみの規制となっている。家族がいれば無償でできる作業に高額な費用がかかる現状だが、どうすればいいのか。 樋口さんは、保険を活用した新しい仕組みができないかと提案する。事故が起きた時に担当者のサポートが得られる...
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    53 分
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