今回のゲストは、ファクトチェックを自ら手掛けるとともに、ファクトチェックの普及・推進にも務めてきた楊井人文(やない・ひとふみ)さん。 楊井さんはファクトチェックの普及・推進活動を行う非営利団体であるファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)の発足から事務局長を務め、2023年6月に任期満了で退任。 「これからは、より自由な個人の立場でファクトチェックのあり方について考察や支援を行っていく」とのこと。 「ファクトチェックとは、ある情報が本当かどうかを一から調べ直すこと。一言でいえば『真偽検証』と楊井さん。 「世の中で広がっている言説、情報の内容が事実に基づいているかどうかを調査し、真偽を判断し、調査した結果を人々に順序立てて解説する活動」だ。 関心を持ったきっかけは、「2011年の東日本大震災と福島原発事故」。大きな不安の中、政府やメディアに対する不信が高まり、ネット上に様々な情報を飛び交った。「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)をめぐる誤報 もあり、 メディアの信頼低下を痛感した」という。 「メディア報道の正確性・品質を高めるための第三者検証機関が必要ではないか」と考えた楊井さんは 日本報道検証機構(GoHoo=ごふー)を立ち上げて、全国紙を中心に誤報を検証・可視化する活動を展開した。 楊井さんは、「もっと遡ると、産経新聞記者時代(2002〜2003)に、イラク戦争で大量破壊兵器疑惑を報じたメディアのあり方に強く幻滅した」と振り返る。 しかし、楊井さんは「GoHooだけでは力不足」と考え、「ファクトチェック・ジャーナリズム」を日本にも広げていく必要を感じ、 2017年 FIJを立ち上げた。 FIJはメディア出身者やアカデミズムの人、実務の人などが集まって発足した。 2019年にGoHooは活動を閉じることになった。ファクトチェック実践と人材育成も兼ねて、共著を出したNHK出身の立岩陽一郎氏率いるNPOメディア「InFact」に参画。ファクトチェック部門を立ち上げ、田島輔(現チーフエディター)、大谷友也(リトマス編集長)を引き入れて養成した。楊井さんは、FIJの事務局長に専念するためInFactを1年余りで離職した。 InFactは今年、IFCNという国際ファクトチェックネットワークの際団体に正式認証も受けた。 ネット誕生のはるか前に、メディアの事前チェックの営みとしてのファクトチェックが1920年代のアメリカで生まれたと言われている。 現在のファクトチェックは、ネットが誕生してまもない1994年ごろに生まれたSnopesという様々な噂を検証するサイトが先駆け。 2000年代に入り、大統領候補など、政治家の発言を検証するポリティカルファクトチェックが盛んになった。代表的なのがFactcheck.org、ポリティファクト。2010年代に入り、世界各国にネット言説を検証するファクトチェックが広がった。 ファクトチェックには3つのジャンルがあり、「公的言説」「社会的言説」「無名言説」に分けられる 現在「無名言説」のファクトチェックが主流になりつつあるが、個人的には「公的言説」「社会的言説」の方が重要ではないかと考えている。 楊井さんによると、「公的言説」「社会的言説」のチェックは相当難しいが、専門家の力を借りたり、インターネットで情報を集めることで、かつてよりファクトチェックはしやすくなっている。 ファクトチェックをするにあたっては、「IFCNファクトチェック倫理綱領」が5つの原則を定めている。 ① 非党派性・公正性 ② 情報源の基準と透明性 ③ 資金源・組織の透明性 ④ 方法論の基準と透明性 ⑤ オープンで誠実な訂正 の5つだ。 これらの原則は3つのエッセンスにまとめられる。 ①公正 Fairness ②透明 Transparency ③誠実 Integrity (Honestness) だ。 Fairnessは、基準を作ってファクトチェックするということ。いろんなファクトチェックをするにあたって、どの立場であっても、同じ基準で検証するということだ。どちらかに肩入れするとか、どちらかを厳しくしたり甘くしたりするといったことはしないでファクトチェックするというのがFairnessだ。 Transparencyとは、...
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