• Ep.768 Linux Foundationが「Agentic AI Foundation」を設立──自律型AIの標準化へ、ビッグテックが結集(2025年12月11日配信)
    2025/12/10

    AI業界において、非常に大きな意味を持つ「握手」が行われました。オープンソースソフトウェアの総本山であるLinux Foundationは、2025年12月9日、新たな組織「Agentic AI Foundation(AAIF)」の設立を発表しました。


    驚くべきはその参加メンバーです。設立を主導したAnthropic、Block、OpenAIに加え、Amazon Web Services (AWS)、Google、Microsoftといった、普段は激しく競合している巨大テック企業たちが、「プラチナメンバー」として一堂に会しました。彼らが手を組んだ目的はただ一つ。「行動するAI(Agentic AI)」の標準ルールを作り、誰でも安心して使えるオープンなエコシステムを築くことです。


    これまで私たちが使ってきた生成AIは、主に人間とチャットをする「対話型」でした。しかし、今まさに始まろうとしているのは、AIが自律的に判断し、システムを操作して仕事を完遂する「エージェント型」の時代です。ここで問題になるのが、各社がバラバラの規格で開発を進めてしまうと、特定のベンダーにロックインされたり、ツール同士が連携できなくなったりするリスクです。


    AAIFはこの課題を解決するために、具体的な技術の「標準化」に取り組みます。 その第一歩として、いくつかの重要な技術がオープンソースとして財団に寄贈されました。例えば、Anthropicからは、AIとデータソースをつなぐ共通規格である「Model Context Protocol (MCP)」が。OpenAIからは、AIエージェントに正しく指示を伝えるための仕様「AGENTS.md」が提供されました。また、決済企業のBlockからは、エージェント開発フレームワークの「goose」が寄贈されています。


    これらが共有財産となることで、開発者は企業ごとの仕様の違いに悩まされることなく、あたかもUSB機器を接続するかのように、様々なAIエージェントやツールを自由に組み合わせて使えるようになります。


    今回の財団設立は、AIが単なる「賢いチャットボット」から、企業の業務フローの中で実際に手を動かす「信頼できる同僚」へと進化するための、重要なインフラ整備と言えるでしょう。

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  • Ep.767 Mistral AI、開発者の「黒い画面」を革命する──Devstral 2とVibe CLIの登場(2025年12月11日配信)
    2025/12/10

    フランスのAIユニコーン、Mistral AIの攻勢が止まりません。先日、フラッグシップモデルである「Mistral 3」を発表したばかりの同社が、今度はソフトウェア開発の現場を直接支援する強力なツール群を投入してきました。それが、新型コード生成モデル「Devstral 2」と、コマンドラインツール「Vibe CLI」です。


    今回の発表の目玉は、エンジニアが仕事で最も長い時間を過ごす場所──いわゆる「黒い画面(ターミナル)」に、AIという優秀な相棒を住まわせられるようになった点にあります。


    まず、心臓部となる「Devstral 2」ですが、これは「240億パラメータ」という絶妙なサイズで設計されています。なぜこれが重要かというと、最新の高性能なノートPCやワークステーションであれば、クラウドに接続せずとも手元のマシンの中で動かせるサイズ感だからです。企業秘密のコードを社外に出したくない企業や、通信遅延を嫌うプロフェッショナルにとって、この「ローカルで動く高性能な頭脳」は非常に魅力的な選択肢となります。


    そして、その頭脳を操るための腕となるのが「Vibe CLI」です。 従来、エンジニアがAIにコードを書かせるときは、ブラウザでChatGPTなどを開き、コードをコピー&ペーストして往復する必要がありました。しかし、Vibe CLIを使えば、開発作業を行うターミナルの中で、そのまま自然言語で指示を出せます。「このエラーを直して」「新しい機能を追加して」と頼むだけで、AIが自律的にプロジェクト内のファイルを読み込み、修正案を提示し、さらにはコマンドを実行してテストまで行ってくれるのです。


    これは単なる「チャットボット」ではなく、自ら行動する「エージェンティックAI(自律型AI)」の思想が色濃く反映されています。また、このツールはオープンソースとして公開されており、特定の巨大テック企業のプラットフォームに縛られない点も、多くの開発者から支持を集める要因となりそうです。


    GitHub Copilotなどの先行サービスが市場を席巻する中、Mistral AIは「オープン性」と「ローカル実行」という武器で、開発者たちのデスクトップの覇権を奪いに来ました。2025年の年末、開発ツール戦争は新たな局面を迎えています。

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  • Ep.766 Waymo、自動運転の「ブラックボックス問題」に終止符──“証明できる安全”と生成AIの融合(2025年12月11日配信)
    2025/12/10

    「AIは賢いが、たまに嘘をつく(ハルシネーション)。だから命を預けるのは怖い」──自動運転業界が抱えていたこの最大のジレンマに対し、Googleの兄弟会社であるWaymoが、一つの「解」を提示しました。


    Waymoは2025年12月、公式ブログにて「Demonstrably Safe AI(実証可能な安全性を持つAI)」と題した重要な技術指針を発表しました。これは、これまで別々の陣営と見なされていた「従来の厳格なルールベース制御」と「最新の生成AIによる柔軟な判断」を、極めて高度なレベルで融合させたものです。


    これまで、自動運転のアプローチには二つの派閥がありました。一つは、Waymoが長年得意としてきた、エンジニアが細かくルールを記述する手法。安全ですが、想定外の事態(例えば、着ぐるみを着た人が道路を横切るなど)に弱いという弱点がありました。もう一つは、Teslaなどが志向する「End-to-End AI」です。これはAIに動画を見せて運転を学ばせる手法で、柔軟性は高いものの、中身がブラックボックスで「なぜその判断をしたか」が説明できないという欠点がありました。


    今回Waymoが発表したアーキテクチャは、この両方のいいとこ取りを狙ったものです。 彼らはシステムの脳内に、Geminiなどの基盤モデルをベースにした「Think Slow(熟考する脳)」と、即座に反応する「Think Fast(反射する脳)」の二つを共存させました。「Think Slow」は、生成AIの圧倒的な知識を使って、「あの歩行者はスマホを見ているから、急に止まるかもしれない」といった高度な文脈理解を行います。


    そしてここからがWaymoの真骨頂ですが、AIが弾き出した運転プランをそのまま実行するのではなく、その外側に「Safety Validator(安全性の検証器)」という監視役を配置しました。この監視役は、物理法則や交通ルールに基づいた厳格なチェックを行い、もしAIが危険な操作をしようとしたら、即座に安全な動作に書き換えます。これにより、AIの柔軟性を活かしつつ、安全性を数学的に「証明(Demonstrate)」することが可能になったのです。


    この技術により、Waymoは「AIにお任せ」の不安を取り除き、規制当局や一般市民に対して「なぜ安全なのか」をクリアに説明できるようになります。それはつまり、自動運転車が実験段階を終え、私たちの街の当たり前のインフラとして普及するための「最後の鍵」が開かれたことを意味しています。

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  • Ep.765 GigaTime、誕生──病理画像から「未来の時間」を予測するMicrosoftの医療AI(2025年12月11日配信)
    2025/12/10

    「AIは、患者さんの『残された時間』や『治療の未来』をどこまで正確に見通せるようになるのか」──そんな医療の核心に迫る技術が、Microsoftから発表されました。その名は「GigaTime」。以前、この番組でも取り上げた病理学向けAI「GigaPath」の進化系とも言えるモデルです。


    Microsoftは、米国のワシントン大学、そして大手医療機関であるProvidenceとタッグを組み、がん患者の病理組織スライドから、その後の経過を予測する画期的なAIツール「GigaTime」を開発しました。


    これまでの医療AIの多くは、「これはがん細胞か、否か」あるいは「どのタイプのがんか」といった、現在の状態を診断することに主眼が置かれていました。しかし、今回登場したGigaTimeが目指したのは、その一歩先、「時間」の予測です。専門的には「Time-to-Event(イベントまでの時間)」分析と呼ばれますが、簡単に言えば、その患者さんが標準治療に対してどれくらいの期間で耐性を持ってしまうのか、あるいは遺伝子変異がどのように進行していくのかといった、将来のタイムラインを予測するのです。


    この開発を可能にしたのは、Providenceが提供した大規模な実世界のデータです。実際の診療現場で得られた数万件にも及ぶ病理スライドと、それに紐づく長期的な臨床記録をAIに学習させることで、GigaTimeは従来のモデルを大きく上回る予測精度を達成しました。


    技術的な基盤には、スライド全体をくまなく解析できる「GigaPath」の能力が使われています。人間の医師が顕微鏡の一部を注視するように見るのに対し、AIはスライド全体にある何十億というピクセルから、微細な細胞のパターンや周辺組織との関係性を読み解き、そこから「予後」に関するヒントを見つけ出すのです。


    この技術が実用化されれば、医師は患者さん一人ひとりに合わせて、「この薬はあなたには効きにくいかもしれないから、早めに別の治療法を検討しましょう」といった、より精度の高い個別化医療(プレシジョン・メディシン)を提供できるようになります。


    AIが単なる「画像の分類係」から、医師と共に患者さんの未来を考える「パートナー」へと進化を遂げつつある。GigaTimeは、そんな医療AIの新しいフェーズを感じさせる技術だと言えるでしょう。

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  • Ep.764 Microsoft、インドへ史上最大175億ドルの投資──激化する「アジアAIインフラ」争奪戦(2025年12月11日配信)
    2025/12/10

    世界のテクノロジー大手による「インドへの熱視線」が、かつてないほどの熱を帯びています。 Microsoftは2025年12月9日、インドに対して2029年までに新たに175億ドル、日本円にしておよそ2兆7000億円規模の投資を行うと発表しました。これは同社のアジア地域における単一の投資としては過去最大規模となります。


    ことの経緯は、Microsoftのサティア・ナデラCEOがインドを訪問し、ナレンドラ・モディ首相と会談したことに始まります。ナデラ氏は会談後、自身のソーシャルメディアで「インドのAIファーストな未来を支える」と宣言しました。この巨額の資金は、主にデータセンターの建設や最新のGPUインフラの整備、そして数百万人のインド国民に対するAIスキルの教育プログラムに充てられる予定です。


    なぜ今、これほどまでにインドなのでしょうか? 背景には、インド市場の爆発的なデジタル成長があります。人口世界一のこの国は、単なる「巨大な消費市場」であるだけでなく、豊富なエンジニア資源を抱える「世界最大級のAI開発拠点」になりつつあります。インド政府も自国のデータを国内で処理し、独自のAI能力を持つ「AI主権」を掲げており、Microsoftはその国家戦略をインフラ面から全面的に支えるパートナーの座を狙っているのです。


    もちろん、ライバルたちも黙ってはいません。 実は、競合するGoogleも今年10月に、インド国内にAIハブを設立するために150億ドル規模の投資を発表したばかりです。また、Amazon Web Services(AWS)も2030年までに巨額のインフラ投資を計画しています。つまり、世界の3大クラウド事業者であるハイパースケーラーたちが、インドという巨大な陣地を巡って、兆円単位の投資合戦、いわば「札束の殴り合い」とも言える激しい競争を繰り広げているのが現状です。


    今回のMicrosoftの動きは、ナデラCEO自身のルーツである場所への貢献という意味合いもありますが、それ以上に、次の10年のAI覇権を握るためには「インドを押さえることが不可欠である」という、シリコンバレーの共通認識を象徴する出来事だと言えるでしょう。

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  • Ep.763 Accenture、Anthropic特化の専門部隊を設立──3万人のエンジニアが切り拓く「AI実運用の時代」(2025年12月11日配信)
    2025/12/10

    企業のAI活用が、「とりあえず試してみる」段階から「本気で使い倒す」段階へと大きくシフトしようとしています。世界的なコンサルティングファームであるAccentureと、生成AI「Claude」の開発元であるAnthropicは2025年12月9日、パートナーシップの大幅な拡大を発表しました。


    この提携の目玉は、Accenture内に新たに設立される「Accenture Anthropic Business Group」です。Accentureはこの取り組みのために、なんと約3万人の自社プロフェッショナルに対し、Anthropicの技術に関する専門トレーニングを実施します。これはClaudeに関連する人材育成としては過去最大規模の展開となります。


    なぜ、これほどの規模の人員が必要なのでしょうか? 背景にあるのは、多くの大企業が直面している「PoC(概念実証)の壁」です。多くの企業がAIの実験を行っていますが、セキュリティへの懸念や、既存システムとの統合の難しさから、全社的な本番運用になかなか踏み切れていません。特に金融や医療、公共サービスといった規制の厳しい業界では、AIの回答の正確性や安全性が厳しく問われます。


    そこでAccentureは、Anthropicが持つ「Constitutional AI(憲法的AI)」──つまり、あらかじめ定められた原則に従って安全に振る舞うAI技術と、自社が持つ業界ごとの深い知見を組み合わせることで、この壁を突破しようとしています。


    また、今回の提携では「ソフトウェア開発の変革」も大きなテーマです。Accentureのエンジニアたちは、AIコーディングアシスタントである「Claude Code」を業務に全面的に採用し、ソフトウェアの開発スピードや品質を根本から底上げすることを目指します。これにより、クライアント企業に対しても、より迅速なシステム構築を提供できるようになるでしょう。


    興味深いことに、Accentureはつい数日前にもOpenAIとの提携強化を発表したばかりです。特定のAIベンダーに依存せず、クライアントのニーズに合わせて最適なAIモデルを組み合わせる「マルチLLM戦略」こそが、今後のエンタープライズAIの勝敗を分ける鍵になりそうです。

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  • Ep.762 Anthropic Interviewer、始動──AIが「1250人の本音」を聞き出す定性調査の革命(2025年12月11日配信)
    2025/12/10

    「AIが人間にインタビューを行い、AIに関する本音を探る」──そんな興味深いプロジェクトが発表されました。米Anthropicは今月、新たなリサーチツール「Anthropic Interviewer」を公開し、これを用いて1,250名の専門家を対象に行った大規模な調査結果を明らかにしました。


    通常、ユーザーの深層心理を探る「定性調査」は、熟練したインタビュアーが一人ひとりと対話する必要があるため、数千人規模で実施するのはコスト的にも時間的にも困難でした。しかし、今回発表されたツールは、同社のAIモデル「Claude」がインタビュアーとなり、対象者に対して10分から15分程度のチャット形式のインタビューを行います。単に用意された質問を投げるだけでなく、相手の回答に応じて「それは具体的にどういうことですか?」と深掘りするなど、まるで人間のような適応力で対話を進めるのが特徴です。


    このツールを用いて行われた調査結果からは、現代のビジネスパーソンが抱える複雑な心境が浮き彫りになりました。調査対象の86%が「AIは時間の節約になる」と回答し、生産性向上を実感している一方で、多くの人々が職場でのAI利用を同僚に隠しているという実態が明らかになったのです。特にクリエイティブ職の回答者からは、「AIを使っていると思われると手抜きだと判断されるのではないか」という「社会的スティグマ」への懸念や、自身のスキルが将来的に無用になることへの不安が多く語られました。


    Anthropic Interviewerの画期的な点は、こうした数値には表れにくい「不安」や「葛藤」といった微妙なニュアンスを、数千人規模のデータからAIが自動で分類・分析し、インサイトとして抽出できることにあります。これにより、従来のアンケート調査ではこぼれ落ちていた「声なき声」を拾い上げることが可能になります。


    市場の反応も好意的です。従来のマーケティングリサーチやユーザー体験(UX)調査の在り方を根本から変える可能性があるとして、多くの企業がこの手法に注目し始めています。AIが人間の仕事を奪うのではなく、人間をより深く理解するための道具として機能する──今回の事例は、そんなAIと人間の新しい関係性を示唆していると言えるでしょう。

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  • Ep.761 Google、2026年に「Gemini搭載AIグラス」を投入へ──“Google Glass”の教訓を生かした逆襲(2025年12月11日配信)
    2025/12/10

    本日は2025年12月9日、火曜日です。かつて「早すぎた未来」として世間を騒がせたGoogle Glassから十数年。Googleが満を持して、スマートグラス市場への再参入を宣言しました。Bloombergや公式イベント「The Android Show」の情報を統合すると、Googleは生成AI「Gemini」を搭載したAIグラスを、2026年に発売する計画を明らかにしました。


    今回の発表で注目すべきは、その「アプローチの変化」です。かつてのGoogle Glassは、機能重視でサイボーグのような見た目だったため、一般社会に受け入れられず、プライバシーの懸念も招きました。しかし、今回のGoogleは違います。 まず、ハードウェアのデザインにおいて、韓国の「Gentle Monster」や米国の「Warby Parker」といった人気アイウェアブランドとパートナーシップを結びました。これは、競合であるMetaが「Ray-Ban」と組んで成功した戦略を明らかに意識したもので、「ギークなガジェット」ではなく「おしゃれなファッションアイテム」として普及させる狙いがあります。


    製品ラインナップは2種類が予定されています。一つは、MetaのRay-Banモデルのようにディスプレイを持たず、内蔵スピーカーとマイク、カメラを使ってAIと音声で対話する「スクリーンフリー」タイプ。もう一つは、レンズの中にナビゲーションや翻訳などの情報を直接表示する「ディスプレイ搭載」タイプです。どちらも、Googleの強力なAI「Gemini」が搭載され、ユーザーが見ている風景を認識し、「あの花の名前は?」「この看板を翻訳して」といったリクエストに即座に応えてくれます。


    市場環境を見ると、現在はMetaがこの分野で先行しており、Appleも開発中と噂される中、Googleは「Android XR」というプラットフォーム(OS)を武器にエコシステム全体で対抗しようとしています。Samsungとの提携によるハイエンドXRヘッドセットに加え、こうした軽量なグラス型デバイスを投入することで、スマホの次に来る「ポスト・スマートフォンの世界」の覇権を握ろうとしているのです。


    2026年、私たちが街中で見かける眼鏡の多くが、実はGoogleのAIと繋がっている──そんな未来が、すぐそこまで来ています。

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