エピソード

  • 教育にお金は届いているか――校長が語る「見えにくい教育環境」のいま
    2025/12/19
    熊本市立出水南中学校の田中慎一朗校長は、「学校は子どもの幸せのための場であり、同時に社会全体の公共サービスだ」と繰り返し語ります。しかし、その“教育環境”がどのような状態なのか、保護者や地域の人たちに意外と知られていない現実もあるといいます。聞き手はRKKの江上浩子です。🔶 見えにくい「校舎の現実」――トイレから分かること田中校長が最初に挙げたのは、子どもたちが毎日使う「トイレ」でした。出水南中学校の一例です。▶ 男子トイレ ・個室が2つ ・1つは和式、1つは洋式▶ 女子トイレ ・個室が5つ ・3つが和式、2つが洋式温水洗浄便座(いわゆるウォシュレット)はありません。冬場は便座も冷たく、家庭のトイレ環境と比べると「かなりギャップがある」状態です。家庭ではすでに多くが洋式・温水洗浄便座に移行している一方で、学校のトイレは和式がまだ多く残っているケースも少なくありません。田中校長は、こうしたギャップが「学校を居心地の悪い場所にしている可能性がある」と指摘します。「家ではウォシュレットなのに、学校のトイレが嫌で…という子は実際にいます。長時間過ごす場所だからこそ、細かい環境が心に影響するんです」(田中校長)授業参観など短時間の訪問では見えない、日常の使いづらさや古さ。それもまた、子どもたちが毎日身を置いている「教育環境」の一部です。🔶 給食費無償化だけで「教育環境」は良くなるのか近年、「給食費の無償化」や「私立高校授業料の実質無償化」が大きく報じられてきました。田中校長も、給食費無償化そのものを否定するわけではありません。「給食費の無償化は、子育て世帯の経済的負担を軽くするという意味ではとても良い取り組みです」(田中校長)ただし、それは主に「保護者の家計支援」であって、「学校の教育環境の改善」に直結しているとは限らない、とも強調します。すでに、経済的に厳しい家庭には就学援助などの福祉制度があり、給食費や修学旅行費が免除される仕組みも整っています。一方で、老朽化した校舎やトイレ、不足している人員といった“足元の環境”に十分なお金が回っていない現実も残ります。「給食費の無償化が悪いとは言いません。ただ、同じお金を使うなら『子どもの学びの場そのもの』にも、もう少し回してほしいという気持ちは正直あります」(田中校長)🔶 自治体によってこんなに違う? 教育環境格差という問題田中校長が危機感を抱いているのが、自治体による「教育環境の格差」です。熊本市には、小・中学校だけで約150校があり、それぞれの校舎を改修・更新していくには膨大な費用がかかります。一方で、学校数が少ない自治体では、トイレの改修や設備投資、支援員の配置などに比較的手厚く予算を回せるケースもあります。象徴的なのが「学習支援員・学級支援員」の配置です。▶ 出水南中学校(生徒約900人) ・学習支援員は全校で1人のみ▶ 他自治体の例 ・同程度の規模でも、4〜5人の支援員が配置されているケースもある授業中に困っている子どものサポート、学習に遅れがちな子へのフォロー、不登校ぎみの生徒へのケアなど、本来支援員が担える役割は数多くあります。しかし、人員が足りない学校では、そのほとんどを担任や少数の教員が背負わざるをえません。「どの自治体に住むかは、子ども自身が選んでいるわけではありません。それなのに、住んでいる地域によって『受けられる教育環境』に大きな差が出ているのは、本来あってはならないことだと思うんです」(田中校長)「教育は公共サービス」と考えるなら、一定水準の環境を全国どこでも確保できる仕組みが必要だ――田中校長は、国レベルでの議論を求めています。🔶 「静かな教室」と「多様性の尊重」をどう両立させるか教育環境の話は、施設やお金だけにとどまりません。教室の雰囲気や指導のあり方も、子どもにとっては大きな環境要素です。保護者アンケートを取ると、こんな声が同時に寄せられるといいます。▶ 「子どもの個性を大切にしてほしい」▶ 「あまり強く指導しないでほしい」一方で、こんな声...
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  • 年末年始は「ネットも防犯」 ――ライブ配信ディレクター・斉場俊之さんに聞くサイバー犯罪対策
    2025/12/12
    ネットも防犯! さいばのサイバー犯罪対策ニュース515+では、2025年最後の放送で「年末年始はネットも防犯 サイバー犯罪対策」をテーマに、ライブ配信ディレクターの斉場俊之さんが、身近なリスクと対策を解説しました。最近では、9月にアサヒビールグループがサイバー攻撃を受け、ビールや飲料の流通に影響が出たことが話題になりました。工場や物流システムが止まれば、「飲みたい人」も「売りたい人」も困ってしまいます。斉場さんは「大企業だけでなく、私たち一人ひとりの生活も、もうデジタル抜きでは回らない」として、年末年始こそネットの防犯を見直すタイミングだと呼びかけます。🔶なぜ今「ネットも防犯」なのか年末年始は、リアルな世界では防犯が強く呼びかけられる時期です。▶ 空き巣対策▶ 帰省中の戸締まりなどは、すっかりおなじみになりました。一方で、ネットの世界でも同じことが起きています。▶ 買い物やふるさと納税でオンライン決済が増える▶ 宅配やギフトのやりとりが増える▶ 忙しさとお酒で気が緩みやすいこうした条件がそろうと、サイバー犯罪に「つけこまれやすい状態」になってしまいます。🔶個人が狙われる“入り口”はメールとSNS斉場さんが「今いちばん注意してほしい入り口」として挙げたのが、メールとSNSのメッセージです。1️⃣ 不在通知メッセージ▶ 「お荷物をお届けに伺いましたが不在のため持ち帰りました。再配達はこちら」▶ 宅配業者名を名乗り、URL(リンク)をクリックさせる年末は贈り物が増える時期です。自分で注文した荷物なら把握できますが、「誰かが送ってくれたかも?」という“心当たりのなさ”が、逆に罠になります。しかも、最近の偽サイトは・・・▶ 本物そっくりのロゴやデザイン▶ 「配達中の荷物マップ」まで表示と、画面の作りが非常にリアルです。政府広報オンラインも「フィッシングの手口は年々巧妙化している」と注意を呼びかけています。2️⃣ 給付金・支援金を装ったメール▶ 「〇〇給付金が振り込まれます。こちらから申請してください」▶ 「申請期限は本日までです!」物価高対策などで、実際にさまざまな給付金制度が出ている今、「こんな給付金もあるのか」と思ってしまう心理を利用した詐欺も増えています。3️⃣ 「至急」「本日中」を連呼する“脅し系”メッセージ▶ 「税金の滞納があります。至急お手続きください」▶ 「アカウントが停止されます。本日中に対策が必要です」不安をあおり、冷静な判断力を奪うのが目的です。斉場さんは、こうした文言が並んだら「9割方怪しいと思っていい」と断言します。基本姿勢は「ネットではまず疑う」私たちは「人を信じましょう」と教わって育ってきました。しかし、ネットの世界では相手の顔も身元も見えません。斉場さんは、こう提案します。▶ ネット上のメッセージは「まず信用しない」から入る▶ 相手が本物かどうかは、別ルートで確認するこれは「人間不信」ではなく、見えない世界で自分と周りを守るための“マナー”と考えた方がよさそうです。🔶やってはいけないこと:メールやSMSのリンクをすぐ踏む詐欺の多くは・・・▶ メールやSMSに貼られたリンクを踏ませるところから始まります。そこから誘導されるのは・・・▶ 偽のログイン画面▶ 個人情報入力フォームです。最近は・・・▶ 短縮URLで本当のアドレスが隠されている▶ 本物そっくりのドメイン名を使っているなどの手口もあり、アドレスの見た目だけで判断するのは難しくなっています。ルールはシンプルです。▶ メールやSMSに記載されたリンクは「踏まない」(押さない)▶ 本当に必要なら、自分で公式サイトやアプリを開いて手続きする政府広報オンラインも、正規サイトを自分で検索してアクセスすることを推奨しています。正しい確認ルート:公式サイト・公式アプリ・電話🔶本物かどうか分からない。けれど、本当に連絡だったら困る――そんなとき、どうすればいいのでしょうか。斉場さんの提案は次の3つです。① 宅配・通販は「公式アプリ/公式サイト」から確認▶ よく使う宅配会社の会員登録...
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  • 年末は映画館で心温まる時間を 「エディントンへようこそ」「楓」「サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行」
    2025/12/05
    上妻祥浩さんが選ぶ12月公開の注目作3本映画解説研究者・上妻祥浩さんが、年末に公開される注目の3作品を紹介しました。今月のキーワードは「分断」と「再生」、そして「共に生きる」。世界や社会のひずみ、人間関係の傷を抱えながら、それでも前を向こうとする人々の姿が描かれます。分断と不安の行き着く先🔶「エディントンへようこそ」(12月12日公開) 公式サイトはこちら👉https://a24jp.com/films/eddington/最初に紹介されたのは、アリ・アスター監督×ホアキン・フェニックス主演の新作「エディントンへようこそ」です。物語の舞台は2020年、コロナ禍のまっただ中にあるアメリカ・ニューメキシコ州の小さな町エディントン。ロックダウンで人々の不安と不満が蓄積し、町はいつ爆発してもおかしくない状態に追い込まれています。主人公は、保安官ジョー(ホアキン・フェニックス)。IT企業の誘致で町を「救おう」とする野心家の市長テッド(ペドロ・パスカル)と、「マスクをする・しない」をきっかけに対立し、やがてジョーは「それなら自分が市長になる」と、市長選への出馬を決意します。選挙戦がヒートアップするにつれ、SNSにはフェイクニュースと憎悪があふれ、炎上が炎上を呼ぶ混沌状態に。同じころ、ジョーの妻ルイーズ(エマ・ストーン)は、カルト集団の教祖ヴァーノン(オースティン・バトラー)の扇動的な動画にのめり込み、陰謀論に取りつかれていきます。エディントンの選挙戦は、疑心と論争と怒りが渦を巻き、町全体が破滅のふちへと突き進んでいきます。「コロナ禍は“きっかけ”にすぎなくて、人間の不安や恐怖がどう暴走していくのかを描いた作品です。SNSや陰謀論が現実を飲み込んでいく怖さを、ちょっと距離を置いて見つめ直せます」(上妻さん)スピッツ「楓」に導かれる、切なくも美しいラブストーリー🔶「楓」(12月19日公開) 公式サイトはこちら👉https://kaede-movie.asmik-ace.co.jp/2本目は、熊本出身の行定勲監督による最新作「楓」。スピッツの名曲「楓」を原案に、ひとつの“秘密”を抱えた恋人たちの物語が紡がれます。福士蒼汰さんが一人二役で演じるのは、双子の兄弟・楓と楓太。弟・楓太が事故で突然命を落とし、その恋人・さち(福原遥さん)はショックのあまり、兄・楓を亡き恋人と勘違いしてしまいます。楓は真実を明かせないまま、弟のふりをして、彼女と「恋人として」生きていくことを選びます。ふたりの周囲の人々は、どこか違和感を覚えながらも見守るしかありません。ニュージーランドで撮影された大自然の風景が、切ないラブストーリーに透明感を添えます。「福士蒼汰さんは、兄と弟の微妙な差を、声のトーンや立ち姿で演じ分けています。福原遥さんのまっすぐな感情表現も相まって、観ているこちらの心が何度も揺さぶられました」(上妻さん)行定監督と主演のふたりは、熊本日日新聞社のフリーペーパー「くまにち すぱいす」のインタビューにも登場。作品に込めた思いや、ニュージーランドロケの裏側などを語っています(12月19日発行号に掲載)。笑って泣ける“やさしいクライム・ムービー”🔶「サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行」(12月26日公開) 公式サイトはこちら👉https://somethingextra-movie.jp/最後に紹介されたのは、フランス発のハートフルコメディ「サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行」です。物語の主人公は、宝石店に押し入った父と息子の泥棒コンビ。逃走の途中で、障害のある人たちと支援者のグループによるサマーキャンプの一行に紛れ込み、「付き添いボランティア」のふりをして旅に同行することになります。一緒に過ごすうちに、泥棒親子の中に少しずつ変化が生まれていきます。障害のある人たちとの交流を通じて、自分本位だった彼らが他者を思いやる感情を取り戻していく姿が、ユーモアと温かさをもって描かれます。この作品には、実際に障害のある11人のアマチュア俳優が出演。脚本も、出演者それぞれに合わせて“当て書き”されており、その自然な存在感が作品の魅力となっています。「エンタメ...
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  • 台湾有事は「存立危機事態」か ――高市首相発言と世論調査が映す“変わりゆく日本”
    2025/11/28
    元RKKアナウンサーの宮脇利充さんが、高市早苗首相の国会答弁と世論調査の結果から、日本社会の変化について語ります。聞き手はRKKの江上浩子です。🔶 発端は「台湾有事は存立危機事態になりうる」発言11月7日、衆議院予算委員会でのことです。立憲民主党の岡田克也議員の質問に対し、高市早苗首相が次のような趣旨の答弁を行いました。▶ 中国・北京政府が台湾を完全に支配下に置くため、戦艦を動かし武力行使を伴う行動に出た場合、 それに対しアメリカが軍を派遣するようなケースであれば「どう考えても存立危機事態になりうるケースであると私は考える」「台湾有事」が日本の「存立危機事態」に当たりうる、と首相自らが明言した形です。宮脇さんは、この発言そのものにも驚きを覚えたとしたうえで、「それ以上にショックだったのは、その受け止め方を示した世論調査の結果でした」と話します。🔶 「存立危機事態」と集団的自衛権とは何か高市首相の答弁を理解するためには、「存立危機事態」と「集団的自衛権」というキーワードを押さえる必要があります。まず「集団的自衛権」とは・・・ 自国が直接攻撃されていなくても、密接な関係にある他国への武力攻撃に対し、実力を用いてそれを阻止する権利と国際法上定義され、日本政府も同様の説明を行っています。日本では長く「専守防衛」を掲げ、海外での武力行使や集団的自衛権の行使は、「憲法上許されない」とされてきました。流れが変わったのは、第二次安倍政権の2014年です。▶ 2014年7月 第二次安倍内閣が「集団的自衛権の限定的行使を容認する」とする閣議決定▶ 2015年 安全保障関連法(いわゆる安保法制)が成立し、「存立危機事態」が法律上定義される法律上の「存立危機事態」は、要約すると次のような状態を指します。▶ 日本と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、その結果、日本の存立が脅かされ国民の生命・自由・幸福追求の権利が「根底から覆される明白な危険」がある場合。この条件を満たしたと内閣が判断したとき、日本は集団的自衛権を行使し、自衛隊が武力行使に参加できる――つまり「海外で戦闘に関わる可能性が現実化するライン」が「存立危機事態」だといえます。🔶 世論調査が映した「問題なし」50%という現実では、高市首相の国会答弁を、世論はどう受け止めたのでしょうか。毎日新聞と社会調査研究センターが今月実施した世論調査では、「台湾有事が存立危機事態になりうる」とした高市首相の答弁について、▶ 「問題があったと思う」……25%▶ 「問題があったとは思わない」……50%という結果が出ました。宮脇さんは、「数字を見て思わず『逆じゃないのか?』と感じた」と振り返ります。調査結果の内訳を見ていくと、傾向はよりはっきりします。▶ 自民党支持層の65%、日本維新の会支持層の54%、国民民主党支持層の65%が「問題なし」▶ 参政党・日本保守党の支持層では「問題なし」が8割を超える▶ 年代別では、40歳以下の55〜60%が「問題なし」と回答▶ 一方で60代は49%、70歳以上は41%と、年齢が上がるほど「問題視する」傾向が強まる「若い世代ほど、高市首相の発言を“問題ない”と受け止めている。このことに、強い違和感と危機感を覚えました」と宮脇さんは語ります。🔶 「日本の存立を脅かす」のは何かここで、もう一度「存立危機事態」の中身に立ち返ってみます。高市首相の答弁は、▶ 中国が台湾に上陸・封鎖などの行動に出る▶ それに対しアメリカが軍を派遣する▶ その結果、日本もそれに「加勢」するケースは「存立危機事態になりうる」という筋立てでした。宮脇さんは、ここに大きな論点があると指摘します。「日本の存立が本当に脅かされるのは、中国とアメリカが戦火を交える“から”ではなく、そこに日本が自衛隊を派兵して“参戦するから”ではないか――そう考える必要があると思うんです」戦争は一度始まれば、どこで歯止めがかかるか誰にも分かりません。▶ 当初は自衛隊だけが前線に送られる想定でも、戦況次第では拡大する可能性がある▶ 「最小限の武力行使」で済む保証は、...
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  • 教育は“カスタマーサービス”ではない ――田中慎一朗校長が語る、学校と社会の関係
    2025/11/21
    熊本市立出水南中学校の田中慎一朗校長は、「教育は保護者向けのカスタマーサービスではなく、社会全体のための公共サービスだ」と語ります。子どもの幸せと、保護者の安心。その両方を支えながらも、「お客様満足」に引きずられすぎると、本来の教育が痩せてしまうのではないか――。聞き手は、RKKの江上浩子です。🔶 教育は“保護者サービス”ではなく「公共サービス」田中校長は、教育の大前提としてこう語ります。「学校は保護者の皆さんから預かった子どもたちの“幸せ”のためにある場所です。その背景にはもちろん、保護者の皆さんの幸せもあります。ただ、その役割は『カスタマーサービス』ではなく、社会の基盤をつくる『公共サービス』だと思うんです」教育は、特定の“お客さま”の満足度だけを上げるサービスではなく、社会全体の将来のために、子どもたちを育てていく営みです。▶ 子ども個人の「今の満足」だけを満たす場ではない▶ 10年後・20年後の社会を支える土台をつくる場▶ その意味で「公共の利益」に資するサービスであるだからこそ、ときには子どもにとって「楽しい」だけではない経験も必要になります。🔶 「楽しい授業」だけでは育たないもの近年、教育現場には「もっと楽しく、分かりやすく」という声が高まっています。田中校長も、それ自体は否定しません。「学びを工夫して、できるだけ前向きに取り組めるようにすることは、とても大事です」しかし一方で、子どもの頃の自分を振り返ると――と、こう続けます。▶ 授業中は45〜50分、席に座って話を聞かなければならない▶ テストの前は机に向かうのがつらい▶ 本当は「ずっと休み時間が続けばいい」と思っていた。勉強は、必ずしも「楽しいことだけ」ではありません。それでも、コツコツ続ける中でしか身につかない力があります。「『子どもが楽しいと言っているから良い』『保護者の希望どおりにしておけばトラブルにならない』という方向に流れすぎると、学校が“本当に伝えるべきこと”を手放してしまう危険があります」🔶 「カスタマーサービス化」への危惧田中校長が今、特に気にしているのは「学校の教育活動がカスタマーサービス化していないか」という点です。▶ 保護者の要望に“とにかく応えること”が優先される▶ 子どもが嫌がること・きついことは、できるだけ避ける▶ 表面的にはトラブルが減り、子どもも保護者も“一見満足”しているように見えるしかし、その結果として――「学校でどんな経験を積み、どんな力を身につけるのか、という本質が薄れてしまうのではないか。そこに強い危機感を持っています」学校は、社会全体で育てていくべき子どもたちの「最後の砦」です。ここで必要な経験まで手放してしまうと、こぼれ落ちてしまう子どもが確実に増えていく――田中校長は、そう指摘します。🔶 「隠れ校則」だけが原因なのか? 不登校報道への違和感文部科学省が毎年行っている「問題行動・不登校等調査」。その報道の中で、最近よく取り上げられるキーワードが「隠れ校則」です。▶ 授業開始2分前には着席していなければならない▶ なるべく挙手するよう強く促される▶ ロッカーや棚の中の整理の仕方、かばんの置き方まで細かく決められているこうした“明文化されていない決まりごと”が、子どもたちを追い詰め、不登校の一因になっているという指摘もあります。もちろん、そうしたケースがあること自体は否定できません。しかし田中校長は、そこだけが強調される流れに違和感を覚えています。「一方で、『授業中がうるさすぎて、集中できない』『ちゃんと勉強したいのに、クラスが落ち着かなくてつらい』という理由で、学校に行きづらくなっている子どももたくさんいるんです」▶ チャイムが鳴っても授業がなかなか始まらない▶ 私語が多く、授業が中断されがち▶ 「静かな環境で学びたい」という子どもほど、教室がつらくなるその子たちも、結果的には不登校になります。「“着席2分前”だけが悪者で、“自由さ”だけが正義かのように扱われると、学びたい子どもたちのニーズが見...
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  • あなたの移動、いくらかかってますか? ――「クルマのコスト」を見直すという節約術
    2025/11/14
    ライブ配信ディレクターの斉場俊之さんが、「あなたのその移動、いくらかかってる?」をテーマに、クルマと公共交通のお金の話をわかりやすく解説します。聞き手は、江上浩子(RKK)です。🔶 熊本城ホールで開かれた「交通熊本トーク」11月9日(日)、熊本城ホール二階ロビーで、斉場さんが企画したイベント「交通くまもととーく」が開催されました。▶ 熊本城ホールのにぎわい創出イベントの一つとして実施▶ 会場にはカフェブースや子ども向けおもちゃコーナーも設置▶ 家族連れがコーヒー片手に、気軽に「交通の未来」を話し合える場に熊本電鉄(熊本電気鉄道)や熊本市交通局、熊本県・熊本市の担当者も“有志”として参加。鉄道会社・バス会社・行政・市民の垣根を越えて、「みんなが使いやすい交通を、みんなで考える」そんな場づくりを目指したイベントでした。🔶 移動にかかっているお金、見えてますか?イベントで斉場さんが投げかけたのは、こんな問いです。「街なかにクルマで出かけるとき、移動にいくらかかっているか、ちゃんと分かっていますか?」電車やバスは、乗るたびに運賃を払うので“見えるお金”です。一方でクルマはどうでしょうか。多くの人が思い浮かべるのは・・・▶ 駐車場代▶ ガソリン代この二つくらいではないでしょうか。しかし、実際にはそれ以外にも、クルマにはこんなお金がかかっています。▶ 車両本体の購入費(ローンの返済を含む)▶ 自動車保険料▶ 車検・点検・修理などの整備費▶ 自動車税などの各種税金▶ 自宅や勤務先の駐車場代つまり、「持っているだけでかかっているお金」が想像以上に大きいのです。🔶 アプリ「SIMもビッグ」で見えた“本当の維持費”イベント会場には、興味深い展示も登場しました。それが、川合春平さんが発したというアプリ「SiMMobiC」です。このアプリに、▶ クルマの種類▶ 年間走行距離▶ 車両価格の目安など、基本的な情報を入力すると、日本人の平均的な税金・整備費などのデータをもとに、「あなたのクルマの維持費は、ざっくりいくらです」と試算してくれる仕組みです。斉場さんが自身のクルマ(普通車・年間一万五千キロ走行)で試算したところ、おおよそ次のような数字が出ました。▶ ガソリン代 :約15万8千円/年▶ 自動車税  :約5万2400百円/年▶ 整備費   :約3万4000円/年▶ 保険料   :約8万5000円/年▶ 車両代(減価償却相当):約18万245円/年▶ 駐車場代  :〇円(郊外在住のため)合計すると――年間約51万円一日あたりにすると、約1,400円ほとんど動かさなかったとしても、「一日1,000円前後は、持っているだけでかかっている」という計算になります。🔶 クルマは「月3万円のサブスク」?年間51万円という金額は、月額に直すとおよそ4万2000円。ここから走行距離の違いなどを考慮して「ざっくり感覚」で捉えると、「クルマは月3万円のサブスク」というイメージが見えてきます。▶ 月3万円の“基本料金”を払い続けている▶ そこに、使うたびのガソリン代・駐車場代がさらに上乗せされる電車やバスは「乗らなければお金はかからない」可変費用ですが、クルマは「乗っても乗らなくても固定で出ていく」お金が大きいのが特徴です。「電気代やガス代と同じ“固定費”として、何となく意識しないまま払い続けている人が多いんですよね」(斉場さん)その分、可処分所得――自由に使えるお金――が知らないうちに削られているとも言えます。🔶 「安い店までのガソリン代」で、得しているつもりが…クルマがあると、ついこう考えがちです。▶ 「あのディスカウントストアまで行けば、日用品が安く買える」▶ 「郊外の大型店まで行ったほうが得」しかし、その移動にかかるコストを冷静に考えるとどうでしょうか。▶ ガソリン代▶ 駐車場代▶ クルマの維持費(固定費の“日割り分”)これらを合計すると、「近所のスーパーで、少しずつ買ったほうが実はトータルで安かった」というケースも、決して珍しくありません。「セカンドカーをほとんど動かしていないご家庭も多いですよね。“安く買い物しているつもり...
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  • 11月は“人間ドラマ”が豊作 上妻祥浩さんが語る注目の新作4本
    2025/11/07
    ――人生と向き合う4つの物語に込められた「光」映画解説研究者の上妻祥浩さんが、11月公開の注目作を語ります。テーマは「人間の心の奥にある“想い”をどう描くか」。家族・再生・母性・喪失――深い主題を抱えた4本がそろいました。聞き手はRKKの江上浩子です。🔶 孤独と再生を描く「港のひかり」(11月14日公開)公式サイトはこちら👉https://minato-no-hikari.com/舘ひろしさんが、かつてのヤクザから港町の漁師へと転身した男を演じる感動作です。北陸の小さな港町で静かに暮らす主人公が、目の不自由な少年と出会い、心を通わせながら過去と向き合っていきます。少年期を演じるのは、寺島しのぶさんの長男で歌舞伎俳優の尾上眞秀さん。10年後の青年期は眞栄田郷敦さんが担当。宇崎竜童/椎名桔平/斎藤工ら実力派が脇を固めます。撮影は日本映画界を代表する撮影監督木村大作さん。35mmフィルムによる圧巻の映像美が、海と“ひかり”の質感を鮮やかに刻みます。「デジタル全盛のいま、ここまで“光の粒”を感じさせる画は稀少。カメラワークだけでも一見の価値があります」(上妻さん)🔶 人生の旅路をめぐる「Tokyo Taxi」(11月21日公開)公式サイトはこちら👉https://tokyotaxi-movie.com/フランス映画『パリ・タクシー』(2023)の日本版リメイク。名匠山田洋次監督の第91作となる本作は、“出発から終点までの一日”を通じて、老女の半生と運転手の心の再生を描きます。85歳のすみれを倍賞千恵子さん、タクシー運転手を木村拓哉さん、若き日のすみれを蒼井優さんが演じ、三世代の時間が交錯。「倍賞さんの歌声が随所に流れるのも山田作品らしい。長年の信頼関係がにじむ演出です」(上妻さん)物語は、東京・柴又の帝釈天を起点に、神奈川県葉山の高齢者施設へ向かう“寄り道の旅”。過去の痛みや時代背景、そして人の絆が織り込まれていきます。🔶 母の決断を描く衝撃作「ナイトフラワー」(11月28日公開)公式サイトはこちら👉https://nightflower-movie.com/『ミッドナイトスワン』の内田英治監督が手がける社会派ドラマ。主演の北川景子さんが、借金を背負いながら2人の子を育てるシングルマザーを演じます。生活のために危険な密売へ踏み込んでしまう母の姿を、切実なリアリティで描写。北川さんは生まれ故郷の関西弁で挑み、感情が爆発する場面では「言葉が剥き出しの武器になる迫力」(上妻さん)。共演の森田望智さんは女性格闘家として彼女を支え、“女性同士の絆”が物語に深みを与えます。🔶 喪失と癒やしのロードムービー「兄を持ち運べるサイズに」(11月28日公開)公式サイトはこちら👉https://www.culture-pub.jp/ani-movie/長年疎遠だった兄の突然の死。身元引受人となった妹が、兄の遺体を引き取りに向かう道中で“知らなかった兄の姿”に触れていく物語です。監督は『湯を沸かすほどの熱い愛』の中野量太さん。柴咲コウさんが妹、オダギリジョーさんが兄、満島ひかりさんが兄の元妻を演じます。原案は小村恵理子さんの実体験に基づくエッセイ。「笑いながら泣ける、深い余韻が残る一本。観終わったあと、静かに心が温まります」(上妻さん)🔶 “心の奥”を映し出す4つの光「今回の4作品はいずれも“人間の内側”を丁寧に見つめています。血のつながりだけでなく、心のつながりで人が支え合う――そんな時代の希望を感じさせます」(上妻さん)この秋、映画館で自分の人生と重ねながら、4つの物語の“ひかり”を感じてみてはいかがでしょうか。
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  • 日本初の女性総理・高市早苗内閣の外交デビューを読む――横須賀視察、赤坂プレスセンター、横田空域まで
    2025/10/31

    高市早苗総理が就任後、立て続けに各国要人と首脳会談を重ねています。ドナルド・トランプ米大統領との会談後には、在日米海軍横須賀基地で原子力空母「ジョージ・ワシントン」(CVN-73)を視察しました。本稿では、その一連の動きをニュース解説風に整理しつつ、登場する人名・地名・施設名を正確な表記に修正・統一してお届けします。


    🔶 首脳外交ラッシュ:就任以来の動き

    ▶ 高市総理は就任以来、ASEAN各国、韓国大統領との会談に続き、中国の習近平国家主席とも会談の場を持つ見通しです。世界に向けて「日本の女性首相」を印象づける外交デビューとなっています。

    ▶ トランプ米大統領との日米首脳会談後には、連携強化を改めて確認しました。


    「国のトップが女性であること自体が、国内外への強いメッセージになります」(宮脇)



    🔶 横須賀での共同発信:日米同盟を前面に

    ▶ 202X年10月28日、高市総理とトランプ大統領は在日米海軍横須賀基地で、原子力空母「ジョージ・ワシントン」(CVN-73)を視察しました。

    ▶ 集合した米軍関係者を前に、両首脳は日米同盟の強化を力強く打ち出しました。場面によってはパフォーマティブな振る舞いも見られましたが、総じて「日米の結束」を可視化する演出だったと言えます。


    🔶 出発地はどこ?:赤坂プレスセンターという実体

    ▶ 横須賀への移動に際し、両首脳は東京都内の米軍ヘリポートからヘリで発ちました。名称は赤坂プレスセンター。

    ▶ 名称から報道施設を連想しがちですが、実体は米陸軍施設(通称:ハーディー・バラックス)で、所在地は東京都港区六本木です。六本木ヒルズの北側、国立新美術館の南側という都心のど真ん中に位置し、ヘリポートの騒音などから東京都・港区が返還を要請してきた経緯があります。

    ▶ 返還の窓口は防衛省で、米側運用との調整が続いています。施設の性格上、返還見通しは容易でないのが現状です。


    🔶 空の見えない国境線:横田空域の基礎知識

    ▶ 首都圏の空域には、在日米軍が航空管制を担う「横田空域」があります(一般に約2,400m〜7,000mの高度帯が言及されます)。

    ▶ 民間機がこの空域を通過・設定する際には米軍の許可が必要となるため、羽田発着便はしばしば房総半島側へ回り込むルートを取ります。例えば熊本—羽田でも、進入・離脱時に遠回りが生じるケースがあります。

    ▶ 横田空域は部分的な返還が段階的に進んできたものの、1960年の新日米安全保障条約期の枠組みが広く残存しています。


    「就任演説で『言うべきことは言う』とした以上、米国に対しても必要な論点は丁寧に提起すべきです。基地問題や日米地位協定の見直しなど、主権に関わるテーマだからです」(宮脇)



    🔶 まとめ:象徴と実務、二つの課題

    ▶ 女性首相としての象徴性は強く、外交の可視化も進みました。

    ▶ 一方で、赤坂プレスセンターや横田空域に象徴される戦後処理の未解決課題は依然として残っています。

    ▶ 高市政権が「同盟の強化」と「主権的課題の改善」をどう両立させるか――ここが今後の評価軸になります。


    解説:元RKKアナウンサー・宮脇利充さん

    聞き手:RKK・江上浩子

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    13 分