「あとに残されたのは、目も口もない、手足もわからぬ肉の塊で、それが身をふるはせながら、絶え入るやうな声で、 ・・・・」

「・・・・ あれほど同情した白雪姫の不幸な身の上が何だかひどくばかばしく思へてきました。 ・・・・」

「まるで棺に入るやうだ、と思ひながら浦島がその赤い肉の舟にはひこむと ・・・・」

「・・・・ プシューケーが軽い失望と悪戯心からエロースの純潔のしるしを引つ張つたのでエロースは目を覚ましました。 ・・・・」

「集まってゐた動物たちは恐ろしいサルの小便が降つてくるのを見てあわてふためいて逃げ散りました。 ・・・」

「お前の望みはちゃんとわかってゐるよ。お前は人間と交はつたね。・・・・」

「・・・・ そのうちに石化能の禍ひは神々にも及び、関節の痛みを訴へる神が増えてきました。 ・・・・」

「大人のための」と断つたのは、子供には毒性がいささか強すぎるのと、話の性質思はずエロティックに傾くことがあつたのとで、大人の方により一層喜ばれさうだからです。 ・・・・・あとがき より

「でも肝腎のところが一寸法師のままですもの ・・・・」

「・・・・ 聖母様の木像がインド人のやうな姿勢で男の子の供へた残飯を貪り食ふところも見てしまひました。 ・・・・」

世の中ってへんてこだから、いろんなところでバランスを保っている。 どこかを突つくと思いがけないところにその影響が現われる。 直接ターゲットを狙うときもあるけど、 わざとべつのほうを狙ってその結果が思いがけないところに出ることもある･･･

ライオンが家畜に適さないのと同様に、恋は狂暴すぎてとてもドメスティックな生活に向いていない、と思う昭子は――「エスプリの小説」「人生の闇の断面がたくみに切りとらえられて、心を打つ」「宝石細工のような作品」第81回直木賞受賞・選評より

『銀座の恋の物語』妻子ある中年サラリーマンが銀座のホステスから二十万円の融資を頼まれ応じるのだが・・・・干魚と漏電』電気代の集金に来た男に夫人がここに越して来てから電気代が異常に高いので電気メーターが壊れているのではないかと調査を依頼したのだが・・・・。

「ただ、アテーナーだけは、ゼウスの稚気にうんざりしてゐたのと、女にはそれが必要あることを認めなかつたのとで、パンドーラーに賢明さを贈るのを見合せました。 ・・・・」

康彦の母の遺骨に関しても、お腹の子に対しても、妻の則子はどこか変っているのだった――「エスプリの小説」「人生の闇の断面がたくみに切りとらえられて、心を打つ」「宝石細工のような作品」第81回直木賞受賞・選評より

未来を予知するサインは、案外身近に転がっている？——プロ野球選手として一軍と二軍をせわしなくいききしている男が、路傍の柳の下である法則性に気づく。それは男の快進撃のはじまりであった。が・・・　「にやり」と苦笑いをせずにはいられない、ショートショートの名手・阿刀田高の世界をご堪能いただけます。

相沢の父は病魔に脳を冒され、長い昏睡のあとで死んだ。その父の最後の頼みをうけ、二年後の１１月２６日午後８時、相沢は帝国ホテルのロビイに向かう。サン・ジェルマン伯爵――“死を欺いた男”つまり死神を欺して不老不死を手に入れた男に、会うために。サン・ジェルマン伯爵は実在するか？彼が手に入れたと伝わる不老不死の秘薬エレキシィとは・・＜監督/吉田純子・編集/三好達也_林岳史＞

「天子様はお怒りになつて、養老の滝に近づくことを禁じるとともに、かの樵の親子を捕へて断罪とされました ・・・・」

「余はお前が非常な賢人であると聞いてゐる。よつて尋ねたいが、この世には自ら真なりと称する三つの宗教がある。その中で本当に真なるものはどれか。 ・・・・」

「赤いもの、白いもの、喰はれて頭だけになつたもの、数へ切れない死骸が積み上げてあり ・・・・」

他人の情事についてまるで興味のない“恋痴”森谷恭平だったが、今回はそうも言っていられない。娘がイカサマ野郎にいれあげ会社の金を使い込んだのだ。相談されたものの全く金はない。しかし。「父さんがなんとかする」大見得を切った恭平は、年老いた愛犬ムクをつかって一計を案じる・・　＜監督/吉田純子・編集/三好達也_林岳史＞

ぎりぎりまで締切りを引き伸ばしておいて姿を晦ませた作家から、編集者に手紙が届いた――「エスプリの小説」「人生の闇の断面がたくみに切りとらえられて、心を打つ」「宝石細工のような作品」第81回直木賞受賞・選評より

リビングの大きなガラスの汚れが気になりだした。 ある日、ポストに投げ込まれたチラシ、 「○○大学お掃除研究会、気軽にご用命下さい」･･･

どこといって取りえのない四十歳の係長・多田野並作は、ある朝、ふと、いつもの通勤電車に乗らなかった――「エスプリの小説」「人生の闇の断面がたくみに切りとらえられて、心を打つ」「宝石細工のような作品」第81回直木賞受賞・選評より

結婚を三日後に控えたある夜、電話がなった。「もし、もし」・・敏郎の知らない女である――「エスプリの小説」「人生の闇の断面がたくみに切りとらえられて、心を打つ」「宝石細工のような作品」第81回直木賞受賞・選評より