
子どもには「失敗する権利」がある ― 成長発達を支える大人のまなざし ―
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🔶「成長発達権」
――あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、これは子どもが健やかに、そして段階的に人として育っていく権利のこと。児童福祉法や子どもの権利条約にも明記されており、すべての子どもが持つ“当たり前の権利”です。
しかし近年、その「当たり前」が揺らいでいるのではないか――そんな懸念を語るのが、熊本市立出水南中学校校長の田中慎一朗さんです。
🔶一発退場の風潮に思うこと
「最近、“子どもが失敗したら終わり”という風潮が強まっている気がします」
SNSやネットニュースの炎上。学校名の特定、電話攻撃――。
たとえ子どもであっても、ミスや失敗があると“一発アウト”のように糾弾され、居場所を失ってしまう。
「もちろん命に関わる重大事件は別です。しかし、そうなる前にもっと小さな“やらかし”があったはずなんです。その段階で何かできたのではないかと、胸が痛むことがあります」
🔶報道のあり方、そして「許さない社会」
ネットだけでなく、メディア報道のあり方にも疑問を感じると田中先生は続けます。
「報道の目的が“問題提起”であるなら、そこには子どもたちの未来への視点が必要です。でも今は、事件を“エンタメ”のように取り上げているケースもあります」
たとえば小学校でのトラブル報道で、現場に“こわもての人”が聞き込みに来る演出。
「スタジオでは笑いが起きていましたが、子どもにとっては恐怖でしかない」
報じること自体の是非に加え、どう伝えるか、どう見せるかも、今問われているのかもしれません。
🔶小さなもめごとを、大人が奪っていないか?
人間関係にすれ違いや衝突はつきもの。
子ども同士だって、言い合いやケンカを経験しながら、関係性の築き方を学んでいくものです。
「でも最近は、“もめごとを起こした子”が、即教室から排除されるケースもあります」
確かに被害を受けた子を守るのは当然ですが、加害側の子の内面や背景にも向き合い、再出発を支える機会をつくることが、学校や社会の役割ではないでしょうか。
「最初は本当に小さなすれ違いだったのに、大人が過剰に介入して、“人と関わるな”というメッセージに変わってしまう。それが積み重なって、やがて“誰でもよかった”という悲しい言葉につながることもあるんです」
🔶許さない社会から、「許しを学べる社会」へ
「失敗をしてしまった子どもに“やり直せる機会”をきちんと設ける。それが教育の原点です」
指導は必要です。叱ることも、時には必要です。でもそれは“断罪”ではないはず。
「きちんと向き合わせる、理解させる、そして受け止める。それが大人の責任であり、社会の責任だと思っています」
🔶地域とともに、子どもを育てる喜びを
そんな中、田中先生がうれしかった出来事を最後に語ってくれました。
昨年の体育大会、近隣のショッピングセンター「ゆめタウン浜線」の駐車場を多くの保護者が無断使用し、迷惑をかけてしまったことがありました。
今年もクレームを覚悟していたところ、施設側からはこう言われたそうです。
「ここの場所を使ってもらって大丈夫ですよ。子どもたちのためですから」
「この言葉に本当に救われた気がしました。地域とともに子どもを育てるという当たり前のことを、もう一度思い出させてもらった出来事でした」
🔶子どもたちは、失敗しながら成長する
「子どもは失敗するものです。それを“人として当然のこと”として、大人がどう支えるかが問われています」
社会全体で、子どもたちの“育つ権利”を守る。
「3ストライクまで待つ社会でありたいですね」と、田中先生は静かに語ってくださいました。
お話:田中慎一朗さん(熊本市立出水南中学校 校長)/聞き手:江上浩子