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昭和61年（1986年）初出。裏通りにある古びた借家は、とある文士が安息の時を過ごす妾宅であった。ここで過ごす時間の描写を通じて、日本女性が持つ奥ゆかしさや独特な個性が描かれている。

明治11年(1936年)初出。突然の雨にふられ、古本屋にとある大学教員が来店した。店主は茶を出し、古本屋という商売の面白話を次々に語ってゆく。話はいよいよ、世界にたった一冊しかないという噂の珍書「BOOK OF DEVIL PRAYER(悪魔祈祷書)」の話となる―

昭和14年（1939年）初出。『ただ歴史の事柄を通しては、こういう風にたまには語り合うことはあった。それが二人の間に幾らか温かい親しみを感じさせた。』風俗探査のためにしばしば東海道へ旅に出る夫、時に誘われて同行する妻。夫婦で静岡や愛知を旅した日々を綴る。

同情するなら出張に行かせてくれ！一年中海外を飛び回っている商社勤務の有田ユカリ。ある日、本社に呼び出されると、出張禁止を告げられた。理由は、体脂肪率が高いために、万が一があると困るから。

『この一、二年何のかのと銀座界隈を通る事が多くなった。知らず知らず自分は銀座近辺の種々なる方面の観察者になっていたのである。』昭和56年（1981年）初出。某俳人の邸宅、天下堂屋上からの眺望など、西洋化が進む銀座界隈を描いた随筆。

昭和51年（1976年）初出。やっともらった縁談の相手は同僚との付き合いを断れず見合いに遅れてやってくるようなお人よし過ぎる男だった。こんな人とは結婚するものかと思っていたが縁談はまとまってしまい―

昭和63年（1988年）初出。一人の男の死をきっかけに再会を果たした若き青年・河野扁理と未亡人・細木。扁理はその縁で出会った細木の娘に恋心を抱くのだが―

昭和52年(1977年) 初出。中務大輔なにがしの一人娘はよくできた若い男と結婚し幸せに暮らしていたが、暮らし向きは悪くなり、娘の両親も亡くなり、世間知らずの二人だけで暮らしてゆくには厳しい状況となる。女は別れを申し出るのだが―

昭和7年（1932年）初出。『誰もみな一日の仕事をすましてそろそろ寝ようとする今頃になって、半里もある田舎道を医者へ行って来てくれとか、六十も越してしまった母親に寝ずについていてくれとか言うことは言い出しにくかった。 』結核を患う男・吉田と彼の周囲の人々を描いた、梶井基次郎の遺作。

昭和3年（1928年）初出。『桜の樹の下には屍体が埋まっている！これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。』 美しいものへの不安を語る短編小説。

昭和61年（1986年）初出。通り道で梅花を楽しむ春、趣深い溝が多く見られた下町の追憶、郊外にも増えた西洋種の花々、茶屋に登場するようになった果物―荷風が散策で見た、さまざまな東京の表情や西洋化し変わりゆく東京のライフスタイルを綴る随筆。

昭和30年（1955年）初出。ジムという西洋人の友達は、舶来の上等な絵の具を持っていた。その中でも藍色と洋紅色はとても美しく、僕の持っている絵の具ではどうしても出せない色であった。 僕はその絵の具がほしくてたまらなくなり―

「トカトントン」は、26歳の復員青年から、創作、仕事、恋愛、デモ、スポーツなど何かやる気が起きると必ず耳に“トカトントン”の音が幻聴で聞こえてきてやる気が失せるという悩みの相談の手紙を受け取った某作家の返信の書簡。

昭和26年(1951年)初出。九月一日の朝。谷川の岸にある小学校に高田三郎という名の転校生がやってきた。自分たちとはまったく違う風貌の転校生を、生徒たちは「風の又三郎」ではないかと噂する―

昭和10年（1935年）初出。眼の病を抱えながらも山奥の家まで毎日、わずかな郵便物を配達してくれる生真面目な郵便配達手がいた。しかし大吹雪が来たあとより、彼は姿を見せなくなる―

昭和3年（1928年）初出。ロシア人の青年・コルニコフはとある日本兵にひとつの打ち明け話を聞かせた。今まで誰一人信じてくれなかった恐ろしい「死後の恋」の話であった―