エピソード

  • 記憶の盆おどり
    2018/08/27

     作家の「私」は昨年の暮れに酒を断ち、もうすぐ一年になる。積年の大酒がたたって、記憶が飛んでしまうようになったために、やめたのだ。それでもなお、記憶がすっぽり抜け落ちることがある。そんな秋の頃、「私」の自宅を謎めいた美女が訪ねてくる……。洗練された文章が読む者を酔い心地にする幻想綺譚。

     表紙デザイン 名久井直子  
     表紙絵 黒猫まな子 

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    1 時間 3 分
  • 無限大ガール
    2018/08/27

     こうと決めたら猪突猛進! 眩しいぐらいまっすぐな高校生女子が大活躍する、爽やかで甘酸っぱい青春小説の短編。
     

    高校二年生の相川早奈(あいかわ・さな)は「日替わりハケン部員」。きょうはテニス部、あすは水泳部、ソフトボール部、園芸部に写真部……。頼まれれば、臨時の助っ人として参加する。去秋、重要な試合を翌日に控え、レギュラーが捻挫したバレー部の友達に泣きつかれたのがきっかけだった。父親の長身と母親の器用さを受け継ぎ、運動神経に恵まれた早奈は以来、ひっきりなしにくる依頼に喜んでこたえ、〝ハケン〟を楽しんでいた。
     

    次に早奈に舞い込んだのは、演劇部部長からのSOS。10月末の文化祭でミュージカルを上演するのに、主演女優が演出家ともめて急遽降板し、代役をと懇願する。その演出家こそ、昨夏、早奈がたった4カ月だけの交際でフラれた元カレの先輩・藤見(ふじみ)だった! 失恋の痛みを引きずる早奈は引き受けるか、悩むが……。             

    表紙デザイン 名久井直子

    表紙絵 佐藤香苗  

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    1 時間 3 分
  • 風鈴
    2018/08/27

     語り手の女性が小学生だった頃、仲良しだった隣家の1つ年下の少年と過ごした日々を回想する。誤って涸れ井戸に転落し、ほんのひと時味わった恐怖の記憶。映画のロケで集落に滞在中の俳優を父にもつ、中学生の少女に魅了され、3人で木工の風鈴を作った夏休みの思い出。そして、別の撮影隊が来た折に悲劇が起こる……。 

    表紙デザイン 名久井直子

    表紙絵 まめふく

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    51 分
  • 最後は臼が笑う
    2018/08/27

     とてもひねりの効いた、一筋縄ではいかない大人のための恋愛短編。確かに女と男は〝出会う〟のだが、そこから先が尋常ではない。幸せの形は人それぞれとは言うものの……。
     

    ヒロインは公務員の桜子、39歳。人生このかた、ろくでなしの悪い男にひっかかり続けてきた関西人。妻子持ちに騙され、借金持ちには貢がされ、アブノーマルな性癖持ちにいたぶられる。ところが、桜子は「ろくでなしや、あかん奴や言われとる男に限ってな、どっかしら可愛いとこを持っとるもんなんや」と公言し、好んで吸い寄せられていく。高校時代からの友人の「私」は、悪弊の連鎖を断つべく有志を募り、「桜子の男運を変える会」まで結成したが、当人は我関せずだから、どうしようもない。
     

    ところがある日、解散して早十年を数える会に、桜子から緊急招集がかかる。「一分の隙もない完全な悪」にとうとう出会ってしまったのだという。〝完全な悪〟とはいったい何者か? 

     

    表紙デザイン 名久井直子

    表紙絵 ムラサキユリエ

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    36 分
  • マリーの愛の証明
    2018/08/27

     初々しい少女たちが、愛と存在について言葉をかわす、思索的な短編。
     

    時代設定も、場所もわからない、女性限定の孤児院らしき「ミア寮」が舞台。主人公のマリーは、どうやら父親の虐待から逃れるため、寮にやってきたようだ。マリーは去年のルームメイトだったカレンと恋人どうしだったが、一ヵ月前に念入りに別れ話を積み重ねて別れたばかり。そんなマリーやカレンら寮生は郊外学習と呼ばれるピクニックで、山を登り、湖のほとりへと出かけてゆく。別れは受け入れるし、未練もない、と言うカレンだが、「ひとつだけ」聞いておきたかったことがある、とマリーに問いかける……。
     

    神は存在するのか? 愛とは何か? 彼女たちの思考も、存在も不確かだからこそ、ほんの一瞬、まばゆいばかりの輝きを放つ。ひとつひとつ、大切に言葉を編み上げて綴られた、結晶のような作品。近代文学を思わせるかぐわしい香りがひときわチャーミング。               

     表紙デザイン 名久井直子
    表紙絵 「幽霊になりたい」2011年 アクリル キャンバス 91 x 116.7 cm © Shinpei Kusanagi 

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    41 分