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#92 なぜ3年目が育たないのか | 縮む社会の設計図③

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2024年、ウォートン校のBastaniらがPNASに発表した実験があります。高校数学の授業でAIを使い放題にしたグループは、練習問題のスコアが48%高かった。ところが同じ生徒たちをAIなしでテストすると、今度は17%低いスコアになった。

練習では伸び、本番では落ちる。道具に頼るほど、道具なしでは動けなくなる——この構造は、数学の授業だけの話ではありません。

職場の育成に置き換えたとき、同じことが起きています。しかも、もっと見えにくい形で。

新人が資料を作り、上司が赤を入れ、「なぜここを直したか」を考える。その繰り返しの中で、組織の文脈が体に入っていく。守破離の「守」というのは、作業を身につけることではなく、判断の基準を暗黙的にインストールするプロセスだった——私はそう理解しています。

ところが今、「文脈を持っている上司がAIを直接使う方が、新人に指示するよりも速くて品質も高い」という合理的な判断が各所で積み重なっています。仕事は回る。でも、その判断が積み重なった先で、打席が構造的に消えていく。

育っていないのは「スキル」ではありません。「AIが出した答えを、なぜ採用するのか」という判断軸です。選択肢を選ぶだけでなく、自分の言葉で判断を立てられるかどうか。これが育つためには、問われる経験が必要です。問われない環境では、育ちようがない。

人口減少の文脈で考えると、この問題はさらに深刻になります。入ってくる人が減る(第1層)、打席に立てない構造(第2層)——このふたつが重なると、「文脈を体で知っている人間」が人口減少以上の速度で減っていく可能性がある。

ポッドキャストで詳しく語っています。

参考資料

  • Bastani, H., Bastani, O., Sungu, A., Ge, H., Kabakcı, Ö., & Mariman, R.(2024)「Generative AI Can Harm Learning」The Wharton School, University of Pennsylvania(PNAS掲載)— AIガードレールなし使用群が練習問題で48%高スコア→AIなしテストで17%低スコアとなった高校数学の実験
  • アニメ「ブルーピリオド」第4話 — 「好きな絵の上澄みを掬ったよう」の台詞。技術はあるが「なぜ」が見えない表現として引用
  • 野中郁次郎・竹内弘高(1996)「知識創造企業」東洋経済新報社 — 形式知と暗黙知の変換プロセス(SECIモデル)、守破離の文脈における暗黙知の体得として参照
  • パーソルホールディングス・中央大学(2018)「労働市場の未来推計 2030」— 2030年労働力不足644万人(シリーズ全体の前提データ)

https://www.valuebooks.jp/shelf-items/folder/84676b46a574170

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