221親の介護、「する」「しない」問題
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「親の介護、正直、したくないんです」。地域包括支援センターやケアマネジャーのもとには、こうした言葉が、ためらいがちに、ときに涙ながらに届きます。多くの方が、その言葉を口にした瞬間、自分を「冷たい人間」だと感じています。誰にも言えないまま、電話口でようやく絞り出すように口にする方も少なくありません。しかし現場で長く相談を受けていると、この感情は決して珍しいものではなく、むしろとても自然な反応であることが分かってきます。
親子関係には、それぞれの歴史があります。子どものころから距離があった、進路や結婚で確執があった、長年疎遠だった、あるいは単純に自分の生活と仕事でいっぱいいっぱいで余裕がない。幼いころに厳しく育てられた記憶が今も残っている方もいれば、大人になってからのすれ違いが解けないまま時間だけが過ぎた方もいます。「したくない」という気持ちの背景は一人ひとり違いますが、共通しているのは、その感情自体を誰にも言えず、一人で抱え込んでしまっていることです。世間には「親の介護は子の務め」という空気が根強くあるため、この感情を口にすること自体に大きなハードルを感じてしまうのです。
介護は、いまも家族が主な担い手となっています。厚生労働省の令和4年国民生活基礎調査によれば、要介護者等からみた主な介護者は「同居の家族」が45.9%を占め、同居の主な介護者と要介護者がともに65歳以上である、いわゆる老老介護の割合は63.5%にのぼります。介護のために仕事を辞める人も少なくなく、総務省の令和4年就業構造基本調査では、介護・看護を理由とした離職者は年間約10.6万人と報告されています。「家族が介護を担うのが当然」という前提の重さが、統計の背後に透けて見えます。この前提が強いほど、「したくない」と感じた自分を責め、誰にも相談できないまま孤立してしまう方が増えていきます。
しかし、介護は「する」か「しない」かの二択ではありません。「したくない」という気持ちを持ったまま、それでも親の安全は確保する、という関わり方は十分に成立します。この資料では、①「したくない」という気持ちは自然な感情であり、それは「全部を自分でしない」という関わり方の設計に変えられること、②介護には「する/しない」の間に無数の関わり方があること、③一人で決めず、一人で抱えないための相談先とその使い方、という3つの観点から整理します。